
夏の放課後、じりじりと照りつける日差しの中、部活を終えた悠斗たちは近くのコンビニに立ち寄っていた。
「はー、今日も暑かったな!」
圭吾が勢いよくアイスのフタを開ける。周りでは男子ハンド部の仲間たちが、それぞれ好きなアイスを手にしている。
「悠斗、何買った?」
「チョコモナカ」
「お前、それ好きだよな」
「悪いかよ」
悠斗はそう言いながら、袋を開けて一口かじる。パリッとしたチョコの食感が心地よい。
一方、近くでは菜月がカップアイスのスプーンを握りながら、ゆっくりと食べていた。
「菜月、それ何味?」
「キャラメルナッツ」
「お前もそれ好きだよな」
「悪い?」
悠斗は苦笑しながら、アイスを食べる手を止める。
そんなとき、突然圭吾がニヤリと笑いながら言った。
「お前ら、一口交換しろよ!」
「……は?」
悠斗と菜月はほぼ同時に圭吾を睨む。
「いやいや、だってさ、アイスってこう、味比べしたくなるじゃん? ほら、俺も悠斗のモナカちょっと食べたいし」
「お前は黙ってろ」
「ひでぇ!」
圭吾はわざとらしく肩を落としたが、周りの部員たちも面白そうに見ている。
「で、どうする? 一口くらいいいじゃん?」
そう言われると、断るのも変な気がして、悠斗はちらりと菜月を見る。
「……別に、いいけど」
菜月は少しだけ驚いたように目を瞬かせたが、すぐにふわりと微笑んだ。
「じゃあ……はい」
そう言って、スプーンをすくい、悠斗の前に差し出す。
悠斗は少し戸惑ったが、意を決して口を開け、スプーンのアイスを受け取った。
「……あ、意外とうまいな」
「でしょ?」
菜月が得意げに笑う。その顔を見て、悠斗はふと意識してしまう。
(……これ、間接キスじゃねぇか?)
今さらになって気づき、思わずそっぽを向く。
そんな悠斗を見て、圭吾がにやにやと笑う。
「おおお、お前ら青春してんなぁ~!」
「うるせぇ!」
悠斗がそう言うと、周りの部員たちが笑い声をあげた。
その中で、菜月だけは、ふと何かを考えるようにスプーンをくるくると回していた。
そして――。
「じゃあ、悠斗のも一口ちょうだい」
「は?」
悠斗は思わず菜月を見つめた。
菜月はまるで試すように、まっすぐ悠斗の目を見ている。
「ダメ?」
「いや、ダメとかじゃねぇけど……」
悠斗は少し迷いながらも、手に持っていたモナカの端を小さくちぎった。
「ほら」
「ありがとう」
菜月は、少しだけ嬉しそうに微笑むと、それを口に入れる。
ほんのわずかに残る悠斗の指の温もり。
それに気づいたのは、たぶん、悠斗だけじゃなかった。
「……なんか、ちょっと甘いね」
菜月の言葉に、悠斗は「そりゃアイスだからな」とそっけなく答えた。
でも、胸の奥で感じた妙な熱は、アイスの冷たさでは消えなかった。
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