
練習試合が終わり、選手たちはクールダウンを終えて荷物をまとめ始めていた。
「いやぁ〜、今日はマジで疲れたなぁ!」
圭吾が伸びをしながらベンチに腰掛ける。
その時――
「菜月先輩っ! お疲れ様です!」
元気な声とともに、天音が駆け寄ってきた。
キラキラした瞳で菜月を見つめながら、ぴょこっとお辞儀をする。
「莉央ちゃんも、お疲れ」
菜月が優しく微笑む。
天音はニコッと笑った後、ふと表情を引き締め――
すっと一歩下がり、小さな声で
「……圭吾先輩も、お疲れ様でした」
「えっ、おい、なんだその距離感!? しかも声、小さくね!?」
圭吾が思わずツッコむが、天音はとぼけたように目を瞬かせる。
「……だって、呪われてるし」
「えっ!? なんで知ってるの!?」
圭吾がガバッと身を乗り出す。
「え? 圭吾先輩、まだ気づいてなかったんですか?」
「いやいやいやいや!? なんでお前そんな確定事項みたいに言うんだよ!?」
天音は不思議そうに首をかしげる。
「だって、呪われてる人って、試合中に変なことばっかり起こりますよね?」
「……」
圭吾は一瞬、言葉に詰まった。
「今日も、転んで顔面でボール受けて、シュート外して、さらにパスもミスってましたよね?」
「うっ……!」
菜月がクスクスと笑いながら、天音の肩をぽんと叩く。
「莉央ちゃん、ちゃんと試合見てるね!」
「ちょっ、お前ら、そうやって俺を追い詰めるのやめろ!!」
「じゃあ、試してみましょうか」
天音がスマホを取り出し、「呪いを検証する方法」を検索し始める。
「えっ、ちょっと待て、何する気!?」
「えーっと、呪いがかかってる人は、手を合わせた時に指先が震える……らしいです」
「そんなバカな!」
「じゃあ、やってみましょうか!」
天音がニコッと笑って、圭吾の両手を取り、指を合わせるポーズを取らせる。
「ほら、圭吾先輩、やってみてください!」
「えっ……マジでやんの?」
「もし呪われてなかったら、普通にできるはずですよ?」
「……」
(やべぇ、ここで「できない」とか言ったら、マジで呪い認定される……!)
圭吾は気合を入れて指を合わせた。
が――
プルプル……
「あっ……!」
「え、めっちゃ震えてる!!」
「いや、違う、違う!! これは緊張してるだけだから!!」
「えぇ〜? ほんとですかぁ〜?」
「うるせぇ!! ていうか、プレッシャーかけるからだろ!!」
圭吾が慌てると、菜月がケラケラと笑いながら天音の肩を叩く。
「うん、やっぱ莉央ちゃん、いい感じに圭吾を追い詰めてるね」
「圭吾先輩、やっぱり呪われてますよね」
「ちょっ、お前、確定するな!!!」
「でも、圭吾先輩が合宿で呪われたって話、菜月先輩から聞きましたよ?」
「おい、菜月……!」
視線を向けると、菜月は「え、普通に話しただけだけど?」と涼しい顔をしていた。
「別にいいじゃん。莉央ちゃん、圭吾のこと面白がってるし」
「おい、なんでお前まで俺を面白枠にしてんの!?」
「だって、今日の試合だって……」
天音が少し困ったような顔で続ける。
「転んで滑ったの、圭吾先輩だけでしたよね?」
「……」
「もしかして、圭吾先輩だけ……?」
「えっ……」
天音の視線がじわじわと圭吾に迫る。
「えっ、ちょっ、待て待て! 俺が滑っただけで、呪い扱いすんのやめろ!!」
「でも、さっきの指の震えとか、妙に呪われてる人っぽくなかったです?」
「お前ら、俺のこと疑いすぎだろぉぉ!!!」
「でもさ、圭吾、最近ずっと調子悪くない?」
菜月がサラッと言った。
「うっ……!」
「ミス増えてるし、なんか運も悪いし」
「ま、まさか……」
「合宿の時から……ずっと……」
「ちょ、やめろやめろ!! なんか怖くなってくる!!」
圭吾が本気で震え始める。
「……でも、気のせいじゃない?」
菜月がポツリと呟く。
「え?」
「ほら、気のせいって思えば、呪いも消えるかもよ?」
「そ、そうか?」
「うん、だから気にしないのが一番」
「……そうだよな!! よし、もう呪いのことは忘れよう!!」
「……あ、でも」
「ん?」
菜月がわざとらしくニコッと笑う。
「次の試合、もしまたミス増えたら……もう言い逃れできないかもね?」
「……」
「……」
「やっぱり呪われてるんじゃないですか?」
天音が純粋な目で圭吾を見つめる。
「マジでやめろぉぉぉぉ!!!」
圭吾の悲痛な叫びが体育館に響き渡る。
菜月と天音は顔を見合わせると、ふっと笑った。
帰り道、菜月がふと呟く。
「結局、圭吾って呪われてるのかな?」
「うーん……」
天音が少し考えてから、ニコッと微笑む。
「まぁ、もう少し様子見ですね!」
「いやいやいや! もう呪い確定みたいな流れやめろぉぉ!!」
圭吾が必死に否定するが、菜月と天音の反応は変わらない。
「だって、今日も結構不運でしたし」
「……っ!!」
「ね、菜月先輩?」
「うん、次の試合、楽しみだね」
二人がわざとらしく頷く。
「おい、何その“次の試合で証明される”みたいなフリ!?」
「圭吾先輩、次の試合、気をつけてくださいね♪」
天音の無邪気な笑顔。
「だから、それが一番怖ぇんだよぉぉぉぉ!!!」
圭吾の叫びが、夕暮れの空に吸い込まれていった。
※コメントは最大500文字、10回まで送信できます