
放課後の校門前、柔らかな夕陽が降り注ぐ。
陽菜が帰ろうとすると、どこか懐かしい声が聞こえた。
「陽菜先輩!」
振り向くと、制服の違う少女が明るく手を振っていた。
「……莉央ちゃん?」
「はいっ♪ やっぱり気づいてくれましたね!」
天音莉央――悠斗の中学の後輩で、陽菜とも同じ中学出身の子だ。
「久しぶりだね。こっちに何か用?」
「えへへ、ちょっと悠斗先輩の顔を見に来ちゃいました!」
陽菜は少し驚いたが、莉央の無邪気な笑顔を見て、自然と微笑んだ。
「試合、見に来てたんだ?」
「はい! 悠斗先輩、やっぱりすごいなって思いました!」
莉央の目がキラキラしているのを見て、陽菜はほんの少しだけ胸の奥がざわつくのを感じた。
「悠斗先輩って、陽菜先輩とは今も仲良しですよね?」
「まあね。クラスも一緒だし、部活もあるし」
「そっか~。いいなぁ」
莉央は少し羨ましそうに言うと、ふっと優しく笑った。
「陽菜先輩は、悠斗先輩のこと……好きだったりするんですか?」
「……え?」
唐突な質問に、陽菜は足を止めた。
「だって、ずっと一緒にいたじゃないですか? そういうのって、特別なんじゃないかな~って」
「……どうだろうね」
陽菜はゆっくりと答えながら、自分の胸の奥を探る。
莉央はそんな陽菜をじっと見つめ、ふわりと笑った。
「そっか。でも、もし陽菜先輩が好きだったら……私、どうしようかな」
「どうするの?」
「……わかんないです。でも、私、悠斗先輩のこと、好きだから」
まっすぐな言葉だった。
その透明な気持ちに触れて、陽菜は少しだけ息を飲んだ。
「陽菜先輩は、悠斗先輩の隣にいるのが当たり前みたいだけど、私はそうじゃないから……頑張らなきゃなって思ってます」
「莉央ちゃん……」
「だから、もし私が悠斗先輩にアプローチしても……怒らないでくださいね?」
そう言いながら、莉央は少し冗談っぽく笑う。
陽菜は一瞬戸惑ったが、すぐに優しく微笑んだ。
「怒るわけないよ。むしろ、応援したいくらい」
「えっ、本当ですか?」
「うん。だって、莉央ちゃん、すごく素敵だもん」
陽菜のその言葉に、莉央は一瞬驚いたように目を瞬かせた。
それから、ふわりと笑う。
「陽菜先輩って、やっぱり優しいですね」
「そうかな?」
「うん。でも……そういうとこ、ちょっとズルいかも」
そう言って、莉央はくるりと振り返った。
「じゃあ、また会いに来ますね!」
「……うん、待ってる」
そう言いながら、陽菜は胸の奥にほんの少しの違和感を残していた。
(……私、何を応援しようとしてるんだろう)
夕陽がゆっくりと沈んでいく。
その赤い光が、どこか切なく感じた。
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