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	<title>記憶のかけら | NOVEL ROOM</title>
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	<title>記憶のかけら | NOVEL ROOM</title>
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		<title>『恋色の蛍光ペン』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 27 Mar 2025 19:26:16 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[恋の始まり]]></category>
		<category><![CDATA[蛍光ペン]]></category>
		<category><![CDATA[実話]]></category>
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					<description><![CDATA[　「……可愛いいよね？」 　そんな友達の言葉に、曖昧に笑って「まぁ、可愛いよな」なんて合わせておいた。 　話題にあがっていたのは、隣のクラスの女子だった。 　特別目立つタイプじゃない。でも、密かに思ってる男子は多い。自分 [&#8230;]]]></description>
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<figure class="wp-block-image size-full"><img fetchpriority="high" decoding="async" width="408" height="204" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-4.jpeg" alt="" class="wp-image-2319" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-4.jpeg 408w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-4-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 408px) 100vw, 408px" /></figure>



<p>　「……可愛いいよね？」</p>



<p>　そんな友達の言葉に、曖昧に笑って「まぁ、可愛いよな」なんて合わせておいた。</p>



<p>　話題にあがっていたのは、隣のクラスの女子だった。</p>



<p>　特別目立つタイプじゃない。でも、密かに思ってる男子は多い。自分も、その中の一人だった。</p>



<p>　彼女は吹奏楽部で、仲のいい女子グループと男子グループがあって、休みの日はよく一緒に遊んでるらしい。そういう話を聞くたび、ちょっとだけ胸がざわついた。</p>



<p>　話しかけたことなんてほとんどないのに、気づけば目で追っている。教室の窓から見える廊下、昼休みの移動中、たまたま近くを通り過ぎるとき。なぜか気になる存在だった。</p>



<p>　だから、その日もたまたまの出来事だったはずなのに、やけに心臓が跳ねた。</p>



<p>　休み時間。ノートをまとめていたとき、ふいに声がした。</p>



<p>　「そのペン、かわいいね」</p>



<p>　顔を上げると、彼女が立っていた。</p>



<p>　思わず一瞬、言葉が出なかった。</p>



<p>　「……ああ、これ？ 修学旅行のときに買ったやつ」</p>



<p>　キャラクターの顔が並んでいる5色の蛍光ペン。ちょっとした遊び心で買ったものだったけど、まさかこんなふうに話題になるとは思っていなかった。</p>



<p>　「使ってみていい？」</p>



<p>　「いいよ」</p>



<p>　手を伸ばしてきた彼女の肩が、ほんの一瞬だけ自分の腕に触れた。</p>



<p>　「……あっ、ごめん！」</p>



<p>　思わず彼女のほうを見ると、照れたように笑って、ペンを手に取っていた。</p>



<p>　「……いいね、これ。黄色とか、目立つし」</p>



<p>　「使う？」</p>



<p>　「いいのー？ じゃあ借りようかな」</p>



<p>　ニコッと笑った顔に、どこか子どもみたいな無邪気さがあって、その瞬間だけ教室の音がすっと遠のいた気がした。</p>



<p>　たったそれだけのこと。でも、ずっと心に残った。</p>



<p>　＊＊＊</p>



<p>　それから、彼女が時々ペンを借りにくるようになった。</p>



<p>　「今日も黄色、借りていい？」</p>



<p>　「どうぞ」</p>



<p>　「ありがと！」</p>



<p>　そんな他愛ないやり取りが、だんだんと自然になっていく。</p>



<p>　何か特別なことを話すわけじゃない。でも、ペンを渡すときに少しだけ指が触れたり、彼女の視線がちらっと合ったり。些細なことが、いちいち胸をくすぐった。</p>



<p>　渡した黄色のペンで、彼女が楽しそうにノートを書いてる姿を、隣の教室のガラス越しに見るのが、ひそかな楽しみになっていた。</p>



<p>　彼女はそれを知らない。</p>



<p>　でも、自分にとっては、たったそれだけのやり取りが、ちょっとずつ、確かに、特別になっていた。</p>



<p>　ある日のこと。<br>　教室でノートを整理していると、彼女と同じ吹奏楽部の子がひょいと顔を出してきた。</p>



<p>　「ねえ、ペン貸してあげてるんだって？ やさしいじゃん〜」</p>



<p>　からかうような笑い声と一緒に、意味ありげな視線を向けてくる。</p>



<p>　「なんでわざわざ、隣の教室まで借りに来るんだろうね〜？」</p>



<p>　その言葉が、妙に心に引っかかった。</p>



<p>　昼休み。<br>　彼女は来なかった。</p>



<p>　誰かに見られてる気がして、ドアの方を見るたび、つい期待してしまう。<br>　けれど、誰も来ない。<br>　机の上には、いつも通りに用意していたキャラペンだけが並んでいた。</p>



<p>　——来ないだけで、こんなに静かに感じるのか。</p>



<p>　その日の夜。</p>



<p>　スマホに通知が届いた。<br>　フォローも何もされていないアカウント。けれど、プロフィールの一言とアイコンの雰囲気で、すぐに彼女だと気づいた。</p>



<p>　「なんか変な噂されちゃってて…ごめんね」</p>



<p>　「変な噂って？」</p>



<p>　「2人っていい感じだよね、みたいな…」</p>



<p>　「それだけ？」</p>



<p>　「うん。」</p>



<p>　「そんなの全然気にしないよ。むしろ、そう思われてるの、ちょっと嬉しいけどな」</p>



<p>　「なにそれ、変なこと言わないでよ笑」</p>



<p>　打ち明けてくれたことが、ただ嬉しかった。<br>　ふたりの距離が、少しだけ近づいたように感じた。</p>



<p>　数日後。<br>　彼女が吹奏楽部の友達と一緒に、また教室に来た。</p>



<p>　「最近、優しくしてもらえなかったんじゃないの〜？笑」</p>



<p>　いつものように茶化されている彼女が、こちらをちらりと見て、照れたように小さく言う。</p>



<p>　「……ごめん。また、借りてもいい？」</p>



<p>　「もちろん」</p>



<p>　「私も借りようかな〜」と横から友達。</p>



<p>　「ごめん、好きな子にしか貸さないことにしてるんだよね」</p>



<p>　「なにそれ〜！ 特別扱い〜？」</p>



<p>　「あっ…ごめん、知らなかったから…」</p>



<p>　彼女は申し訳なさそうに目を伏せて、指先でキャラペンの端をそっとつまんだ。</p>



<p>　「いや、だからずっと貸してたんだけど」</p>



<p>　そう言って、笑いながら返すと——<br>　彼女は一瞬きょとんとして、何か言いかけたけれど、小さくうなずいてペンを持ち上げる。</p>



<p>　「……ありがとう」</p>



<p>　そう言って、顔を赤らめながら足早に教室を出ていった。</p>



<p>　「……えっ？ ちょっと待ってよ〜！」</p>



<p>　置いていかれた吹奏楽部の友人が、慌てて後を追いかけていく。</p>



<p>　——ちょっと、言いすぎたかな。</p>



<p>　そう思いながらも、胸の奥では小さな期待が膨らんでいた。</p>



<p>　その夜、彼女からのメッセージ。</p>



<p>　「今日もありがとう。また借りにいくね」</p>



<p>　「いつでもどうぞ」</p>



<p>　少し間があって、ポンと通知がまた鳴る。</p>



<p>　「あのさ、お昼の話って……」</p>



<p>　「ん？」</p>



<p>　「好きな子にしか貸さないって……」</p>



<p>　「あれは冗談だよ笑」</p>



<p>　「びっくりした〜」</p>



<p>　「ごめんね！でも、この先きっと好きになると思う」</p>



<p>　「その冗談は返事に困るよ〜」</p>



<p>　「これは冗談じゃないよ」</p>



<p>　「もう、なにそれ笑…そういうのは、普通は心の中に閉まっておくものじゃないの？」</p>



<p>　「え？ もしかしてはみ出してた？」</p>



<p>　「はみ出してる！」</p>



<p>　「じゃあ、もう好きってことかもしれないな、ちゃんと隠しておこう！」</p>



<p>　「隠す気ないじゃん笑、全部言ってる！」</p>



<p>　「秘密にしておいてくれない？笑」</p>



<p>　「もう……明日からどんな顔して会えばいいの…」</p>



<p>　「じゃあ、おやすみ」</p>



<p>　「寝れないじゃん…おやすみ！」</p>



<p>　翌日。</p>



<p>　休み時間になると、彼女はまたそっと教室に現れた。</p>



<p>　少し髪を耳にかけるしぐさ。笑ってはいるけど、どこか緊張しているように見えた。</p>



<p>　「今日も……借りていい？」</p>



<p>　「もちろん」</p>



<p>　手を伸ばしながら、彼女がぽつりと呟く。</p>



<p>　「昨日のメッセージ…」</p>



<p>　「……あ、ごめん！好きってこと、秘密にしておいて！お願い！」</p>



<p>　「もう……！」</p>



<p>　照れたように目をそらす彼女を見ながら、心がじんわりと熱を帯びていくのがわかった。</p>



<p>　それから、ふたりのやりとりは日常になった。</p>



<p>　「ねぇねぇ、また借りに来たの〜？笑」</p>



<p>　「うるさいなぁ！」</p>



<p>　吹奏楽部の友達がからかっても、彼女はもう、逃げるような顔はしなかった。<br>　ちらりとこちらを見て、困ったように笑って、それから——小さく、嬉しそうに笑った。</p>



<p>　放課後。</p>



<p>　机の上。黄色のペンの横に、ひとつの小さなメモが添えられていた。</p>



<p>　『明日は……赤色もお願い』</p>



<p>　丸く優しい文字と、うさぎとも猫ともつかないゆるキャラの落書き。</p>



<p>　それを見て、思わず笑ってしまった。</p>



<p>　明日も、また彼女と話せる。<br>　たったそれだけの確信が、今日一日の終わりを、そっとあたたかく包んでくれた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>
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		<title>『もう少しだけ』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 09 Mar 2025 21:49:06 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[夕暮れ]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛小説]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
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					<description><![CDATA[放課後、夕陽が窓ガラスを朱色に染めていた。 教室の空気は緩やかで、友達の話し声や椅子を引く音が混じり合っていた。 自分はまだ帰る準備をする気になれず、机に肘をつき、なんとなく外を眺めていた。 赤く染まった校庭の向こうで、 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-3.jpeg" alt="" class="wp-image-2210" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-3.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-3-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>放課後、夕陽が窓ガラスを朱色に染めていた。</p>



<p>教室の空気は緩やかで、友達の話し声や椅子を引く音が混じり合っていた。</p>



<p>自分はまだ帰る準備をする気になれず、机に肘をつき、なんとなく外を眺めていた。</p>



<p>赤く染まった校庭の向こうで、部活の掛け声が響く。</p>



<p>そのとき、不意に声がした。</p>



<p>「……まだ帰らないの？」</p>



<p>声のほうを見ると、彼女だった。</p>



<p>普段はあまり話すことのない同級生。</p>



<p>けれど、席が近いせいか、なんとなく互いの存在を知っている、そんな距離感。</p>



<p>彼女の髪が夕陽を受けて、ほのかに光って見えた。</p>



<p>「もう少ししたら帰るよ」</p>



<p>そう答えると、彼女は少しだけ考えて——</p>



<p>「じゃあ、一緒に帰る？」そう言った。</p>



<p>一瞬、言葉が出なかった。</p>



<p>別に特別な意味はないのかもしれない。</p>



<p>たまたま帰る方向が同じなだけ。</p>



<p>けれど、こんなふうに彼女から誘われるのは初めてだった。</p>



<p>「……うん、いいよ」</p>



<p>そう答えると、彼女は微笑んで、先に鞄を肩にかけた。</p>



<p>その横顔は、いつもより少しだけ柔らかく見えた。<br>　<br>昇降口を抜けると、夕暮れの空気が肌に触れた。</p>



<p>まだ少しだけ暑さが残る季節だったけれど、夕方になると風が心地よかった。</p>



<p>二人で並んで歩く。</p>



<p>特に話すこともなく、互いの足音だけが響く。</p>



<p>こうして並んで歩くのは、きっと初めてだった。</p>



<p>それが妙にくすぐったくて、何か話さなきゃと思うのに、言葉が見つからない。</p>



<p>彼女はどんなことを考えているんだろう。</p>



<p>こうして誰かと帰ることなんて、彼女にとっては特別なことじゃないのかもしれない。</p>



<p>でも、自分にとっては——</p>



<p>「……いつも、こうやってのんびりしてるの？」</p>



<p>彼女がふいに口を開いた。</p>



<p>「え？」</p>



<p>「帰るの遅いよね。前にも、夕方まで残ってたの見たことある」</p>



<p>「あぁ……なんとなく、帰るタイミング逃すことが多くて」</p>



<p>「ふーん」</p>



<p>彼女はそれ以上何も言わずに歩く。</p>



<p>でも、どこか納得したような表情だった。</p>



<p>風が吹いた。</p>



<p>前を歩いていた小学生たちの自転車のベルの音が遠ざかっていく。</p>



<p>そのまま、二人の間にまた沈黙が落ちる。</p>



<p>だけど——嫌な感じはしなかった。</p>



<p>交差点の手前で、信号が赤に変わる。</p>



<p>二人は自然と足を止め、並んで立つ。</p>



<p>「……こうやって歩くの、なんか新鮮」</p>



<p>ぽつりと、彼女が言った。</p>



<p>「……そう？」</p>



<p>「うん。こういうの、あんまりないから」</p>



<p>「友達とは帰らないの？」</p>



<p>「帰るよ。でも、こうやって二人っていうのは、あんまりないかも」<br>　<br>信号が青に変わる。</p>



<p>歩き出すタイミングが少しずれて、自分が少し前に出る形になった。</p>



<p>そうしてまた、並ぶ。</p>



<p>校門を出てから、すれ違う人の数が増えてきた。</p>



<p>部活帰りの生徒や、自転車で駆け抜ける人たち。</p>



<p>その中で、自分たちは変わらず並んで歩いていた。</p>



<p>何を話せばいいのかわからなかった。</p>



<p>でも、不思議と気まずさはなかった。</p>



<p>むしろ、この静かさが心地よく思えた。</p>



<p>この時間が、もう少し続けばいいのに——</p>



<p>そんなことを、ふと考えた。</p>



<p>住宅街に入ると、彼女が「あ、ここで曲がる」と言った。</p>



<p>「あぁ」</p>



<p>「今日は、なんかありがと」</p>



<p>「え？」</p>



<p>「たぶん、一人だったらすぐ帰ってたから」<br>　<br>彼女はそう言って、小さく笑った。</p>



<p>「……うん」</p>



<p>何か、言葉を返したかったけれど、いい返事が思い浮かばなかった。</p>



<p>彼女が軽く手を上げて、家の方へ歩き出す。</p>



<p>その背中を見送ってから、もう一度歩き出した。</p>



<p>心なしか、夕暮れの空がいつもより広く感じた。<br>　<br>住宅街を抜けて、ひとりになった帰り道。</p>



<p>彼女と並んで歩いていた時間を思い出す。</p>



<p>特別な会話をしたわけじゃない。</p>



<p>でも、あの沈黙が心地よかったことだけは、はっきり覚えている。</p>



<p>ふと、ポケットに手を入れると、指先に触れたものがあった。</p>



<p>それを取り出してみる。</p>



<p>——飴玉。</p>



<p>彼女が、別れ際に何気なく差し出したもの。</p>



<p>「これ、いる？」と軽く聞かれて、なんとなく受け取った。</p>



<p>そのときは特に気にしていなかったけれど、今になって妙に気になった。</p>



<p>彼女は、あのとき何を考えていたんだろう。</p>



<p>なぜ、わざわざ自分にこれをくれたんだろう。</p>



<p>考えたところで答えは出ない。</p>



<p>でも、なんとなく——</p>



<p>また一緒に帰れるといいな。</p>



<p>そんなことを思った。<br>　</p>



<p>次の日。</p>



<p>いつもと同じ朝。</p>



<p>いつもと同じ教室。</p>



<p>けれど、なんとなく、彼女の存在が気になった。</p>



<p>意識していないつもりだった。</p>



<p>でも、視線が自然と彼女のほうへ向かってしまう。</p>



<p>気づかれたら恥ずかしいから、さりげなく。</p>



<p>それとなく。</p>



<p>「……」</p>



<p>彼女はいつも通り友達と話していた。</p>



<p>昨日と変わらない日常。</p>



<p>自分だけが、昨日を引きずっている気がした。</p>



<p>窓の外を見る。</p>



<p>晴れているのに、風は少し冷たい。</p>



<p>秋が近づいているんだろう。</p>



<p>昨日のことを、彼女は覚えているんだろうか。</p>



<p>それとも、何気ないこととして、もう忘れてしまったんだろうか。</p>



<p>そんなことを考えていると、不意に——</p>



<p>「おはよう」</p>



<p>彼女の声が聞こえた。</p>



<p>びくりと肩が跳ねる。</p>



<p>「……お、おはよう」</p>



<p>予想外のことに、ぎこちなくなった声。</p>



<p>彼女は特に気にすることもなく、にこりと微笑んで、自分の席へ戻った。</p>



<p>それだけのこと。</p>



<p>たったそれだけのことなのに、なぜか胸が騒いだ。</p>



<p>放課後。</p>



<p>昨日と同じ時間、同じ場所。</p>



<p>ふと、昇降口で靴を履き替えていると、彼女の姿が目に入った。</p>



<p>——昨日と同じように、一人だった。</p>



<p>「……」</p>



<p>少しだけ、迷う。</p>



<p>でも、自然と足が動いていた。</p>



<p>「今日も、一緒に帰る？」</p>



<p>気づけば、そう声をかけていた。</p>



<p>彼女は驚いたようにこちらを見て——</p>



<p>「……うん」</p>



<p>昨日と同じように、微笑んだ。</p>



<p>それだけで、今日の帰り道が少しだけ特別なものに思えた。</p>



<p>昨日より、ほんの少しだけ距離が縮まった気がした。</p>



<p>そして——</p>



<p>昨日より、もう少しだけ長く、この時間が続けばいいと思った。</p>



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		<title>『明日もきっと…』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 09 Mar 2025 15:38:24 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[偶然の視線]]></category>
		<category><![CDATA[片思い]]></category>
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					<description><![CDATA[　昼休みが終わる少し前、教室内はざわめいていた。　誰かの笑い声が響き、廊下を走る音が遠くに聞こえる。机に突っ伏しているやつもいれば、まだ話し足りないのか、立ったまま談笑しているやつもいる。 　窓際の席で、何の気なしにペン [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img decoding="async" width="568" height="284" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/07183afbe0c67d838d61f56ff6788b7a.jpeg" alt="" class="wp-image-2206" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/07183afbe0c67d838d61f56ff6788b7a.jpeg 568w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/07183afbe0c67d838d61f56ff6788b7a-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 568px) 100vw, 568px" /></figure>



<p>　昼休みが終わる少し前、教室内はざわめいていた。<br>　誰かの笑い声が響き、廊下を走る音が遠くに聞こえる。机に突っ伏しているやつもいれば、まだ話し足りないのか、立ったまま談笑しているやつもいる。</p>



<p>　窓際の席で、何の気なしにペンを指で転がす。<br>　ぼんやりと窓の外を眺める。</p>



<p>　ふと向かいの校舎の方へ目を向けると、視線がぶつかった。</p>



<p>　廊下を挟んだ向こう側。<br>　窓際に座っていた彼女も、こちらを見ていた。</p>



<p>　数秒間。</p>



<p>　ただ、それだけのことだったのに、心が小さく跳ねる。</p>



<p>　それは本当に、ただの偶然だったのか。<br>　それとも、向こうもこちらを見ていたのか——</p>



<p>　そんなことを考えた瞬間、チャイムが鳴った。</p>



<p>　ざわついていた教室が一気に慌ただしくなり、視線を戻したときには、もう彼女の姿はなかった。</p>



<p>　放課後、帰る支度をしながら、友人がふと声をかけてきた。</p>



<p>　「お前、最近よく外見てるよな」</p>



<p>　何気ない言葉に、心臓が僅かに揺れる。</p>



<p>　「……そうか？」</p>



<p>　「そうだよ。昼休みとか、窓際でぼんやりしてること多いし」</p>



<p>　「気のせいだろ」</p>



<p>　適当に笑ってごまかしながら、カバンを肩にかける。<br>　それ以上何か言われる前に、足早に教室を出た。</p>



<p>　帰り道、歩きながら今日のことを思い出す。</p>



<p>　偶然、視線が交わる。<br>　それだけのはずなのに、なぜか心がざわつく。</p>



<p>　名前も知らないし、話したこともない。<br>　けれど、なぜか目で追ってしまう。</p>



<p>　また明日、目が合うだろうか。<br>　そんなことを考えてしまう自分が、なんとなくおかしかった。</p>



<p>　空は夕焼けに染まり、地面に伸びた影がゆっくりと揺れる。<br>　風が吹いて、木々の葉が静かにざわめいた。</p>



<p>　「……考えすぎか」</p>



<p>　小さく息を吐くと、そのまま足を速めた。</p>



<p>　次の日、昼休み。</p>



<p>　いつもと変わらない日常。<br>　窓際の席に座り、何をするでもなく、ただ外を眺める。</p>



<p>　向かいの校舎を意識しているわけじゃない。<br>　そんなつもりはないのに、気づけば目がそちらへ向いている。</p>



<p>　誰かが窓際で友人と談笑しているのが見えた。<br>　教室の奥では、誰かが笑い声を上げる。</p>



<p>　けれど、探していた姿は、どこにもなかった。</p>



<p>　昨日の出来事は、やっぱりただの偶然だったのかもしれない。<br>　ほんの一瞬、視線が重なっただけ。</p>



<p>　それだけのことなのに。</p>



<p>　それだけのことなのに、今日もまた、目で追ってしまう。</p>



<p>　小さく息を吐いた、そのとき。</p>



<p>　廊下を歩く誰かの姿が目に入った。<br>　意識するより先に、その動きを目で追ってしまう。</p>



<p>　ゆっくりと歩く彼女の姿。<br>　友人と話しているのか、時折、小さく笑っていた。</p>



<p>　何気ない仕草、何気ない表情。<br>　昨日よりもずっと近くにいるのに、触れられない距離がもどかしい。</p>



<p>　気づかれるはずもないのに、心臓の音がわずかに早くなる。</p>



<p>　そのとき。</p>



<p>　彼女がふと、足を止めた。</p>



<p>　そして、ゆっくりと顔を上げる。</p>



<p>　視線が交わる。</p>



<p>　昨日よりも、ほんの少し長く目が合った。</p>



<p>　けれど、またしても、言葉は出なかった。<br>　何を言えばいいのかもわからないまま、ただ見つめることしかできなかった。</p>



<p>　彼女は、小さく瞬きをして、そして——</p>



<p>　ふっと、微笑んだ。</p>



<p>　その瞬間、心が強く揺れる。</p>



<p>　ほんの少し、世界が変わったような気がした。</p>



<p>　帰り道。</p>



<p>　いつもと同じ道を歩いているはずなのに、何かが違って見えた。</p>



<p>　足取りが軽いわけじゃない。<br>　何かが劇的に変わったわけでもない。</p>



<p>　けれど、心のどこかが、少しだけ浮ついている。</p>



<p>　昨日まではただの「偶然」だった。<br>　でも今日の視線は、どうだったのだろう。</p>



<p>　ほんの一瞬。</p>



<p>　それだけのことなのに、どうしてこんなにも心に残ってしまうのか。</p>



<p>　風が吹く。</p>



<p>　夕暮れの空を見上げると、雲がゆっくりと流れていく。</p>



<p>　また明日、目が合うだろうか。</p>



<p>　そう考えた瞬間、自分でも気づかないうちに、小さく笑っていた。</p>



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		<title>『夏の余韻』</title>
		<link>https://novel-room.online/summers-afterglow/</link>
					<comments>https://novel-room.online/summers-afterglow/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 09 Mar 2025 14:52:26 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
		<category><![CDATA[祭り]]></category>
		<category><![CDATA[花火]]></category>
		<category><![CDATA[夏の終わり]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
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					<description><![CDATA[　夜空に花火が咲いていた。　大きく広がった光がゆっくりと消えていく。 　浴衣姿の人が行き交う、夏の夜。　祭りの賑やかさに包まれていたはずなのに、今は少しだけ静かだった。 　さっきまで男友達と祭りを歩いていたが、偶然、女友 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-2.jpeg" alt="" class="wp-image-2203" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-2.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-2-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>　夜空に花火が咲いていた。<br>　大きく広がった光がゆっくりと消えていく。</p>



<p>　浴衣姿の人が行き交う、夏の夜。<br>　祭りの賑やかさに包まれていたはずなのに、今は少しだけ静かだった。</p>



<p>　さっきまで男友達と祭りを歩いていたが、偶然、女友達に出会い、なんとなくそのまま一緒に回ることになった。</p>



<p>　けれど、気づけば周りにいたはずの友人たちは姿を消し、いつの間にか彼女と二人きりになっていた。</p>



<p>　「はぐれた……？」</p>



<p>　彼女がふと足を止める。</p>



<p>　辺りを見回してみるけれど、もう人波に紛れてしまっている。<br>　戻るにしても、この人混みじゃ見つけるのは難しそうだった。</p>



<p>　「どうする？」</p>



<p>　そう聞くと、彼女は小さく息をついた。</p>



<p>　「……まあ、待ってればそのうち見つけてくれるかもね」</p>



<p>　そう言って、少しだけ辺りを見回す。</p>



<p>「でも、この人混みじゃ、探すのも難しそう……」</p>



<p>　そう呟いたあと、彼女は「少し歩こうか」と言ってゆっくり歩き出した。</p>



<p>　つられて、自分も歩き出す。</p>



<p>　祭りの喧騒を抜けた道は、驚くほど静かだった。<br>　さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、風の音だけが聞こえる。</p>



<p>　「……涼しいね」</p>



<p>　彼女が呟いた。</p>



<p>　そういえば、花火が終わった途端に風が変わった気がする。<br>　昼間の暑さが嘘みたいに、少し肌寒いくらいだった。</p>



<p>　隣を歩く彼女の浴衣の袖が揺れる。</p>



<p>　祭りの灯りが遠ざかるにつれ、少しずつ静寂が広がっていく。<br>　さっきまでいた場所が、どこか遠く感じる。</p>



<p>　こんなふうに、二人きりで歩くのは初めてだった。</p>



<p>　——妙に、心臓の音がうるさく感じる。</p>



<p>　「……さっき、射的やってたよね？」</p>



<p>　彼女が思い出したように言う。</p>



<p>　「見てたの？」</p>



<p>　「うん」</p>



<p>　少し恥ずかしくなる。<br>　結果は散々だったのに。</p>



<p>　「すごく真剣な顔してた」</p>



<p>　そう言って、彼女はふっと笑った。</p>



<p>　狙った景品は取れなかった。<br>　でも、こうして覚えていてくれたことが、少しだけ嬉しかった。</p>



<p>　「何が欲しかったの？」</p>



<p>　「……何でもよかった」</p>



<p>　本当はそうじゃない。<br>　でも、なんとなく言えなかった。</p>



<p>　「そっか」</p>



<p>　彼女はそれ以上何も聞かなかった。</p>



<p>　静かな夜道。</p>



<p>　このまま、もう少し歩いていたい気がした。</p>



<p>　「……もう少し、ゆっくり歩こうか」</p>



<p>　彼女のその言葉に、自然と足を緩めた。</p>



<p>　どうして、こんなにも心が揺れるのか。</p>



<p>　たぶん、答えはわかっている。</p>



<p>　でも、それを言葉にするのは、もう少しだけ先にしたかった。</p>



<p>　風が吹いた。</p>



<p>　浴衣の袖がふわりと揺れる。</p>



<p>　夜の静けさが、二人の距離をそっと包んでいた。</p>



<p>　人混みの中では気づかなかった、夜の匂いがふっと鼻をかすめる。</p>



<p>　ほんのりと、夏の終わりを感じさせるような、少し涼しい空気。</p>



<p>　「……もう秋だね」</p>



<p>　彼女が、ぽつりと呟いた。</p>



<p>　「そうだな」</p>



<p>　空を見上げる。<br>　花火の煙が風に流され、すっかり夜の闇が戻っていた。</p>



<p>　「夏って、あっという間に終わるよね」</p>



<p>　「毎年そう思うけど、また来年も同じこと言うんだろうな」</p>



<p>　「ふふ、たしかに」</p>



<p>　彼女が小さく笑った。</p>



<p>　それだけの会話なのに、なんとなく心が落ち着かない。</p>



<p>　理由はわかっていた。<br>　祭りの間は、たくさんの人がいたのに。<br>　今は、この道に二人きり。</p>



<p>　「さっき、ベビーカステラ買ってたよね？」</p>



<p>　「うん」</p>



<p>　袋の中に、まだ少し残っている。<br>　歩きながら、何気なく手を伸ばして一つ口に入れる。</p>



<p>　「美味しそう」</p>



<p>　彼女がぼそっと呟いた。</p>



<p>　なんとなく、袋を差し出してみる。</p>



<p>　「いる？」</p>



<p>　「えっ、いいの？」</p>



<p>　「まだ余ってるし」</p>



<p>　少しの間があってから、彼女が小さく手を伸ばした。<br>　袋の端をそっとつまんで、迷うように一つだけ取る。</p>



<p>　「……じゃあ、ひとつだけ」</p>



<p>　口元に運びながら、嬉しそうに目を細めた。</p>



<p>　「……美味しい」</p>



<p>　そう言って、もう一度笑う。</p>



<p>　その横顔を、ふと目で追った。</p>



<p>　いつもは、少し遠くから見ているだけだった。<br>　こんなふうに、近くで見ることなんてなかった。</p>



<p>　なのに——</p>



<p>　「……ん？」</p>



<p>　彼女が不思議そうにこちらを見る。</p>



<p>　しまった。<br>　見すぎていたかもしれない。</p>



<p>　「……いや、なんでもない」</p>



<p>　慌てて視線を逸らし、適当に誤魔化す。</p>



<p>　自分で思っていたよりも、ずっと意識してしまっていることに気づく。<br>　たぶん、さっきの花火のせいだ。<br>　そういうことにしておこう。</p>



<p>　ゆっくりと、彼女が歩き出す。</p>



<p>　「そろそろ戻ろうか」</p>



<p>　「……そうだな」</p>



<p>　今日が終わったら、きっとまたいつもの距離に戻るんだろう。</p>



<p>　友達と一緒に笑って、何もなかったように。</p>



<p>　きっと、来年も夏はあっという間に終わる。<br>　また、同じように祭りに行くかもしれない。</p>



<p>　そう思ったら、少しだけ——</p>



<p>　この静かな時間が、名残惜しくなった。</p>



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		<title>『消しゴムの名前』</title>
		<link>https://novel-room.online/erasers-name/</link>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 09 Mar 2025 14:03:21 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
		<category><![CDATA[消しゴム]]></category>
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					<description><![CDATA[授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 ガタガタと椅子を引く音、ざわめき、教室に広がる日常の音。机に肘をつきながら、なんとなく黒板を見つめる。 不意に名前を呼ばれ、顔を上げた。 先生が、手のひらに乗せた小さな消しゴムをか [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-1.jpeg" alt="" class="wp-image-2200" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-1.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-1-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。</p>



<p>ガタガタと椅子を引く音、ざわめき、教室に広がる日常の音。<br>机に肘をつきながら、なんとなく黒板を見つめる。</p>



<p>不意に名前を呼ばれ、顔を上げた。</p>



<p>先生が、手のひらに乗せた小さな消しゴムをかざしている。</p>



<p>「落とし物だ。名前が書いてあるぞ」</p>



<p>「ほら」と消しゴムを渡されるが、</p>



<p>（え？）</p>



<p>一瞬、理解が追いつかなかった。<br>けれど、教室のざわめきがピタリと止まり、数秒後には「おおー！」と興味をそそられたような反応が返ってくる。</p>



<p>「お前、名前書く派なの？」</p>



<p>「いやいや、違う。俺のじゃない」</p>



<p>慌てて否定した。</p>



<p>でも、確かにそこには自分の名前が書かれている。</p>



<p>手のひらサイズの、どこにでもある普通の消しゴム。<br>でも、文字の筆跡は見覚えのないものだった。</p>



<p>「じゃあ誰のだ？」</p>



<p>先生がもう一度教室を見渡す。</p>



<p>その瞬間、視線の端に彼女の姿が映った。</p>



<p>端の席。<br>普段あまり話すことのない、でも、いつもなんとなく目で追ってしまうあの子。</p>



<p>彼女が、一瞬だけ息をのむような仕草をした。</p>



<p>そして、小さく俯く。</p>



<p>「……」</p>



<p>偶然かもしれない。<br>でも、もしかして——</p>



<p>「とりあえず、持っておけ。持ち主がいたら返してやればいい」</p>



<p>先生はそう言って、消しゴムをポンと机に置いた。</p>



<p>周りから「お前のだろー！」「モテ期か？」なんて茶化されながら、無言でそれを手に取る。</p>



<p>小さな、何の変哲もない消しゴム。<br>だけど、それが今、妙に重たく感じられた。</p>



<p>放課後。</p>



<p>いつもより少し遅く教室を出た。<br>荷物をまとめながら、ポケットに入ったままの消しゴムを何度か指でなぞる。</p>



<p>——どうしよう。</p>



<p>返すべきなのか、それとも、このまま持っているべきなのか。</p>



<p>（……いや、何を考えてるんだ）</p>



<p>結局、自分の名前が書かれていた理由もわからないままだ。<br>それだけで何かを期待するのは、単なる勘違いかもしれない。</p>



<p>それでも——</p>



<p>「……あの」</p>



<p>廊下を歩いていると、不意に背後から小さな声がした。</p>



<p>振り向くと、そこに彼女がいた。</p>



<p>「……さっきの消しゴム、私の、なの」</p>



<p>その声は、どこか申し訳なさそうで、それでいて少しだけ緊張しているようにも聞こえた。</p>



<p>「え？」</p>



<p>思わず、聞き返してしまう。</p>



<p>「さっきの、落としちゃって……」</p>



<p>「……」</p>



<p>言葉の続きを待つ。<br>けれど、彼女は何かを言いかけて、それ以上は口を開かなかった。</p>



<p>ただ、じっとこちらを見ている。</p>



<p>「……そっか」</p>



<p>ポケットの中の消しゴムを取り出す。</p>



<p>「ほら」</p>



<p>そっと手のひらに乗せると、彼女は少し戸惑ったように、それを受け取った。</p>



<p>「……ありがとう」</p>



<p>消しゴムを持つ指先が、かすかに震えていた。</p>



<p>「……でもさ」</p>



<p>自分でも、なぜその言葉を口にしたのかはわからなかった。</p>



<p>「なんで俺の名前、書いてたの？」</p>



<p>彼女の表情が、一瞬ぴたりと固まる。</p>



<p>そして——</p>



<p>「それは……」</p>



<p>何かを言おうとした、けれど。</p>



<p>「……なんでもない」</p>



<p>小さく息を吐いて、ふっと笑った。</p>



<p>「気にしないで」</p>



<p>そう言って、彼女は軽く頭を下げて、足早に去っていった。</p>



<p>その後ろ姿を、ぼんやりと見送った。</p>



<p>結局、理由は聞けなかった。<br>でも、それでもいい気がした。</p>



<p>名前が書かれた理由は——</p>



<p>彼女が去ったあと、しばらくの間、その場を動けなかった。</p>



<p>消しゴムをそっと握りしめた彼女の指先。<br>「気にしないで」と笑ったあの表情。</p>



<p>あれが本当に、ただの「なんでもない」ことだったのだろうか。</p>



<p>——気になる。</p>



<p>でも、それ以上に、これ以上何かを聞いたらいけないような気もした。</p>



<p>彼女が言葉を選んで、そう言ったのだから。</p>



<p>……これで終わり？</p>



<p>そう思おうとしたのに、なぜか心の奥に、小さな引っかかりが残る。</p>



<p>次の日。</p>



<p>教室に入ると、何となく彼女の方を見てしまった。</p>



<p>席は少し離れている。<br>普段なら気にすることもないのに、今日は無意識に視線が向く。</p>



<p>彼女は、いつもと変わらない様子だった。</p>



<p>友達と話しながら笑い、時々頷いたり、窓の外を眺めたり。<br>それは、昨日までと同じ彼女だった。</p>



<p>でも、たった一つだけ違ったのは——</p>



<p>机の上に、昨日の消しゴムが置かれていたこと。</p>



<p>さりげなく視線を戻す。<br>気にしすぎるのも変だ。</p>



<p>でも、どうしてだろう。</p>



<p>消しゴムの向きが、妙に気になった。</p>



<p>普通、机に置くなら、何気なく転がしておくだろう。</p>



<p>けれど、その消しゴムはまっすぐに置かれていた。<br>まるで、それを持ち主に見てもらうことを期待しているかのように。</p>



<p>その白い表面に、昨日と同じように——<br>自分の名前が書かれている。</p>



<p>昼休み。</p>



<p>どうしようもなく気になって、結局彼女の近くを通ってみた。</p>



<p>すると、ふとした瞬間、彼女と目が合った。</p>



<p>彼女は一瞬、驚いたように目を瞬かせ——</p>



<p>それから、ゆっくりと笑った。</p>



<p>それは、昨日よりもほんの少しだけ、柔らかい笑顔だった。</p>



<p>「……ねぇ」</p>



<p>彼女が声をかけてきたのは、その帰り道だった。</p>



<p>「昨日のことだけど……」</p>



<p>立ち止まる。</p>



<p>彼女も足を止めて、少し考えるように空を見上げた。</p>



<p>「やっぱり、言っておこうかな」</p>



<p>そう言って、ポケットから昨日の消しゴムを取り出した。</p>



<p>「これね、別に落としたんじゃなくて……本当は、大事に持ってたの」</p>



<p>消しゴムをそっと両手で包み込む。</p>



<p>「でも、名前、見られちゃったよね」</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>「だから、もう隠すのは無理かなって思って」</p>



<p>彼女は、少しだけ困ったように笑った。</p>



<p>「恋のおまじない、知ってる？」</p>



<p>「……ん？」</p>



<p>「好きな人の名前を消しゴムに書いて、それを最後まで使い切ると……願いが叶うってやつ」</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>聞いたことはあった。<br>でも、まさか、そんな話が今ここで出るとは思わなかった。</p>



<p>「それで……」</p>



<p>彼女は、少しだけ目を伏せる。</p>



<p>「これ、私が書いたんだ」</p>



<p>自分の名前が書かれた消しゴムを、そっと差し出した。</p>



<p>「……」</p>



<p>何かを言わなきゃいけない。</p>



<p>そう思うのに、言葉が出てこなかった。</p>



<p>「だから、昨日はびっくりして、つい誤魔化しちゃったけど……でも、もういいかなって思って」</p>



<p>「……」</p>



<p>彼女が、ふっと笑う。</p>



<p>「だって、もうバレちゃったし」</p>



<p>そう言って、消しゴムを指先でくるりと回した。</p>



<p>「……ごめんね、変なことして」</p>



<p>「……」</p>



<p>言葉を探す。</p>



<p>でも、何を言えばいいのか、わからなかった。</p>



<p>ただ、彼女の手の中にある消しゴムを見つめることしかできなかった。</p>



<p>「もし、迷惑じゃなかったら……」</p>



<p>一瞬、躊躇うようにして。</p>



<p>でも、彼女はそれでも、勇気を出したように言った。</p>



<p>「このまま、持っていてもいい？」</p>



<p>「……」</p>



<p>答えは、決まっていた。</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>自然と口からこぼれた言葉に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。</p>



<p>「よかった」</p>



<p>そう言って、彼女は消しゴムをそっとポケットにしまう。</p>



<p>そして、いつも通りの笑顔で「じゃあ、また明日」と言って、軽く手を振った。</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>彼女の背中を見送る。</p>



<p>そのポケットの中に、まだ名前が書かれたままの消しゴムがあることを思いながら。</p>



<p>「……」</p>



<p>なんとなく、自分の手がポケットの中の鍵を探した。</p>



<p>きゅっと握りしめる。</p>



<p>それは、いつもと変わらない手の感触だったはずなのに、なぜか今日だけは少し違って感じた。</p>



<p>それが何なのかは、まだわからない。</p>



<p>ただ、彼女がポケットにしまった小さな消しゴムのように——</p>



<p>その気持ちも、そっと胸の奥にしまっておこうと思った。</p>



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		<title>『小さな落とし物』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sat, 08 Mar 2025 12:36:50 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
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					<description><![CDATA[小さな落とし物 放課後の教室は、昼間の賑やかさを忘れたように静かだった。 机と椅子が無造作に並び、窓の外から吹き込む風がカーテンをゆるく揺らしている。掃除当番を終えて荷物をまとめたあと、ふと廊下に目をやる。 ——彼女がい [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5.jpeg" alt="" class="wp-image-2132" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>小さな落とし物</p>



<p>放課後の教室は、昼間の賑やかさを忘れたように静かだった。</p>



<p>机と椅子が無造作に並び、窓の外から吹き込む風がカーテンをゆるく揺らしている。<br>掃除当番を終えて荷物をまとめたあと、ふと廊下に目をやる。</p>



<p>——彼女がいる。</p>



<p>数人の友達と話している姿が、半開きのドアの隙間から見えた。</p>



<p>彼女は、クラスでも目立つ存在だった。</p>



<p>勉強ができるとか、運動が得意とか、そういうわけじゃない。<br>けれど、いつも誰かの中心にいて、自然と視線を集めるような子だった。</p>



<p>特別、意識していたわけじゃない。<br>話すこともほとんどないし、隣の席になったこともない。</p>



<p>なのに、気づけば目で追っている自分がいる。<br>彼女が笑うと、まるで周りの空気が少しだけ柔らかくなるようだった。</p>



<p>教室を出て廊下を歩く。<br>彼女のすぐ横を通り過ぎる瞬間、ふと足元に何かが落ちているのが見えた。</p>



<p>小さな、黒いヘアゴム。</p>



<p>彼女のものかどうかは分からなかった。<br>けれど、さっきまで髪を結んでいたのに、今はほどけているのが目に入る。</p>



<p>「あ！」</p>



<p>気づいたのか、彼女が髪をかき上げる仕草をした。<br>その指先が、いつもより少し寂しげに見えた。</p>



<p>拾って、声をかけようか——。</p>



<p>一瞬、迷う。<br>目の前には、彼女の友達がいる。<br>自分が話しかけたら、変に思われるかもしれない。</p>



<p>結局、その場では何もできず、ヘアゴムだけをそっとポケットにしまった。</p>



<p>帰り道の途中、ポケットの中のヘアゴムを指先で転がす。<br>どうして拾ったんだろう。<br>渡せばよかったのに、気づかないふりをしてしまった。</p>



<p>もし、明日も彼女が髪を結んでいなかったら、やっぱり必要だったのかもしれない。<br>でも、落としたことすら気づいていないかもしれない。</p>



<p>どうすればいいんだろう。</p>



<p>ただのヘアゴム。<br>それなのに、ポケットにあるだけで、妙に気にかかる。</p>



<p>次の日。</p>



<p>彼女は、昨日と変わらず髪を結んでいた。<br>昨日と同じように、無造作にまとめられたポニーテール。<br>新しいヘアゴムを使ったのか、それとも誰かから借りたのか。</p>



<p>もし、このまま渡さなかったら、別に困ることはないんだろうな。<br>そう思うと、余計に渡しそびれてしまう。</p>



<p>授業の合間、ちらりと彼女の方を見た。<br>窓際の席で、友達と小さな声で話している。<br>時折、窓の外に目を向けては、頬杖をつく。</p>



<p>あのヘアゴムは、本当に彼女のものだったんだろうか。<br>確信が持てないまま、またポケットの中で指先がそれをなぞる。</p>



<p>放課後、彼女が教室を出るタイミングを見計らう。<br>何かのついでのように、さりげなく渡せればいい。</p>



<p>けれど、そんな都合のいいタイミングはなかなか訪れなかった。</p>



<p>自分が帰るころには、彼女の姿はもうどこにもなかった。</p>



<p>帰宅して、机の上にヘアゴムを置く。<br>まるで自分のものみたいに、そこにあるのが変な気分だった。</p>



<p>渡せないまま、二日が過ぎた。</p>



<p>たったそれだけのことなのに、気持ちがもやもやと落ち着かない。<br>手元にある限り、ずっと気にしてしまいそうだった。</p>



<p>——明日こそは、渡そう。</p>



<p>そんなことを考えながら、眠りについた。</p>



<p>次の日。</p>



<p>ヘアゴムをポケットに入れて、何度も指先で確かめる。<br>今日こそは渡そう。そう決めたはずなのに、思っていたより簡単じゃない。</p>



<p>授業中、机の上に頬杖をつきながら彼女の方をちらりと見る。<br>何かを考えているように、ぼんやりと窓の外を眺めていた。</p>



<p>窓からの光が髪に映えて、ゆるく結ばれたポニーテールがそよぐ。<br>新しいヘアゴムを使っているのか、昨日と変わらない後ろ姿。</p>



<p>（……もう、渡さなくてもいいのかも）</p>



<p>そんな考えがよぎる。</p>



<p>彼女が困っている様子はない。<br>落としたことすら気にしていないのかもしれない。</p>



<p>だったら、わざわざ渡す必要なんて——。</p>



<p>放課後、なんとなく教室に残る。</p>



<p>彼女は友達と談笑しながら、ゆっくりと荷物をまとめていた。<br>特に急ぐわけでもなく、帰るタイミングを見計らっているようにも見えた。</p>



<p>本当なら、その間に声をかければよかったのかもしれない。<br>けれど、彼女の友達がすぐ隣にいるだけで、気軽に話しかけることはできなかった。</p>



<p>「じゃあ、また明日ね！」</p>



<p>彼女は友達に手を振り、教室を出て行った。</p>



<p>その後ろ姿を目で追う。</p>



<p>気づけば、また渡しそびれていた。</p>



<p>帰り道。</p>



<p>もう空は薄暗くなり始めていた。<br>秋の夕暮れは短く、気温も少し肌寒くなっている。</p>



<p>結局、今日も渡せなかったな——。<br>そう思いながら歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿があった。</p>



<p>彼女だった。</p>



<p>一人で歩いている。<br>いつも友達と一緒なのに、珍しい。</p>



<p>渡すなら、今かもしれない。</p>



<p>歩幅を少し早める。</p>



<p>「……」</p>



<p>声をかけるタイミングを探すが、うまく言葉が出てこない。</p>



<p>ポケットの中で、ヘアゴムをそっと撫でる。<br>たったこれだけのことで、どうしてこんなに迷うんだろう。</p>



<p>ふと、彼女が立ち止まった。</p>



<p>何かを探すように、足元を見つめる。</p>



<p>もしかして——。</p>



<p>小さく息を吸って、思い切って声をかけた。</p>



<p>「……これ、落とした？」</p>



<p>そう言って、ポケットからヘアゴムを取り出す。</p>



<p>彼女がこちらを向いた。</p>



<p>一瞬、驚いたような表情をした後、ヘアゴムを見て目を瞬かせる。</p>



<p>「あ……」</p>



<p>手を伸ばして、そっとそれを受け取った。</p>



<p>「ありがと。……どこで拾ったの？」</p>



<p>「教室の前で。多分、落としたんじゃないかと思って……」</p>



<p>「そっか……気づかなかった」</p>



<p>彼女はヘアゴムを指で弄びながら、小さく笑った。</p>



<p>「でも、なんで持ってたの？」</p>



<p>鋭い質問だった。</p>



<p>「いや……その、すぐ渡せばよかったんだけど……」</p>



<p>言葉を濁すと、彼女はくすっと笑う。</p>



<p>「もしかして、ずっと持ってた？」</p>



<p>からかうような口調。</p>



<p>「……まぁ、そんな感じ」</p>



<p>正直に答えると、彼女は少しだけ驚いた顔をした。</p>



<p>「そっか」</p>



<p>それだけ言って、視線を落とす。</p>



<p>その後、しばらく沈黙が続いた。</p>



<p>何か話さなきゃと思いながらも、何を言えばいいのかわからない。</p>



<p>そうしているうちに、彼女がゆっくりと歩き出した。</p>



<p>「……じゃあね」</p>



<p>そう言って、小さく手を振る。</p>



<p>いつもより少しだけ、ゆっくりと。</p>



<p>「……ああ」</p>



<p>そう返して、彼女の背中を見送った。</p>



<p>ポケットの中には、もうヘアゴムはない。</p>



<p>ただ、それだけのことなのに。</p>



<p>どこか、胸の奥がふわりと揺れる気がした。</p>



<p>それが何なのかは、まだよくわからない。</p>



<p>次の日。</p>



<p>授業中、ぼんやりと窓の外を眺めていた。</p>



<p>昨日のことが頭から離れない。</p>



<p>手を振っていた彼女の後ろ姿、ほんの少し驚いたような表情。</p>



<p>「もしかして、ずっと持ってた？」</p>



<p>その言葉を思い出すたび、胸の奥が妙にざわつく。</p>



<p>渡すだけのつもりだったのに。</p>



<p>どうして、こんなに気になるんだろう。</p>



<p>昼休み。</p>



<p>いつものように、友達と他愛のない会話をしていた。</p>



<p>ふと、教室の入り口の方で、彼女の姿が見えた。</p>



<p>「おーい！」</p>



<p>隣の席の子が、彼女に手を振る。</p>



<p>彼女は小さく微笑んで、軽く手を振り返した。</p>



<p>その横顔を、つい目で追ってしまう。</p>



<p>そんな自分に気づき、少しだけ息をつく。</p>



<p>（……なんなんだ、これ）</p>



<p>ただのヘアゴムひとつ。</p>



<p>それを渡しただけなのに、こんなにも意識してしまうのが不思議だった。</p>



<p>放課後。</p>



<p>帰り支度をしながら、何気なく教室の外を覗いた。</p>



<p>彼女がいた。</p>



<p>廊下で友達と談笑しながら、髪を結び直している。</p>



<p>手に持っているのは——昨日、渡したヘアゴムだった。</p>



<p>思わず、心臓が跳ねる。</p>



<p>（使ってる……？）</p>



<p>自分でも驚くほど、小さなことで嬉しくなった。</p>



<p>でも、すぐに気づく。</p>



<p>彼女が結んだ髪を、友達が軽く引っ張っていた。</p>



<p>「それ、昨日のやつ？」</p>



<p>「うん、落としたやつ。拾ってくれたみたいで」</p>



<p>「へぇ〜、よかったね」</p>



<p>「うん」</p>



<p>彼女は少しだけ笑った。</p>



<p>どこか、昨日より柔らかい表情に見えた。</p>



<p>帰り道。</p>



<p>昨日と同じ時間、同じ道。</p>



<p>だけど、今日は彼女の姿はなかった。</p>



<p>代わりに、昨日のことを思い出していた。</p>



<p>「……ありがと」</p>



<p>それだけの言葉だったのに。</p>



<p>こんなにも記憶に残るなんて。</p>



<p>自分でも、思っていたより単純なのかもしれない。</p>



<p>だけど——。</p>



<p>それでいい、そう思った。</p>



<p>次の日も、また次の日も。</p>



<p>彼女の髪には、昨日渡したヘアゴムがあった。</p>



<p>それを目にするたび、小さく心が動く。</p>



<p>特別な言葉を交わしたわけでもない。</p>



<p>それなのに、不思議と忘れられない。</p>



<p>彼女の後ろ姿を、目で追いながら思う。</p>



<p>（……たぶん、これがはじまりなんだろうな）</p>



<p>名前を呼んだこともない。</p>



<p>二人で話したことなんて、ほとんどない。</p>



<p>それでも、彼女を目で追う時間が、少しずつ増えていく。</p>



<p>そんな自分に気づいてしまった。</p>



<p>だけど、それを認めるのは、もう少し先でいい気がした。</p>



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		<title>『窓越しの君』</title>
		<link>https://novel-room.online/you-through-the-window/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 06 Mar 2025 17:43:21 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
		<category><![CDATA[窓越し]]></category>
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					<description><![CDATA[放課後、何となく窓の外を眺めるのが習慣になっていた。 理由なんてない。 授業の終わり、机に置いた手を少し伸ばして、ぼんやりと外を見る。 グラウンドでは部活の掛け声が響き、昇降口の前には帰る準備をする生徒たちがいる。 その [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/874c4df3ce10145522987857a62a4136.jpeg" alt="" class="wp-image-2122" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/874c4df3ce10145522987857a62a4136.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/874c4df3ce10145522987857a62a4136-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>放課後、何となく窓の外を眺めるのが習慣になっていた。</p>



<p>理由なんてない。</p>



<p>授業の終わり、机に置いた手を少し伸ばして、ぼんやりと外を見る。</p>



<p>グラウンドでは部活の掛け声が響き、昇降口の前には帰る準備をする生徒たちがいる。</p>



<p>その中に、彼女の姿を見つけた。</p>



<p>特に気にしていたわけじゃない。</p>



<p>ただ、目についた。</p>



<p>いつの間にか、視線が追っていた。</p>



<p>成績もいいし、運動もできる。<br>何より、可愛い。</p>



<p>彼女はいつも誰かと一緒にいて、笑っている。</p>



<p>ただ、それだけのこと。</p>



<p>なのに、いつの間にか目で追ってしまう。</p>



<p>探してしまう自分に、少しだけ戸惑う。</p>



<p>＊</p>



<p>ある日、いつものように窓の外を見ていた。</p>



<p>昇降口の前、彼女が友達と並んで歩いている。</p>



<p>そして、不意に足を止めた。</p>



<p>誰かを探すように、視線を上げる。</p>



<p>──え？</p>



<p>次の瞬間、彼女は小さく手を振った。</p>



<p>窓越しに、まっすぐこちらへ向けて。</p>



<p>風が吹いて、彼女の髪が揺れる。</p>



<p>友達が驚いたように隣を見ている。</p>



<p>「え、誰に？」</p>



<p>聞こえなくても、口の動きでわかった。</p>



<p>彼女は軽く笑って、そのまま歩き出した。</p>



<p>何もなかったように。</p>



<p>でも、こっちはそうはいかなかった。</p>



<p>胸の奥が、ざわついた。</p>



<p>──今のは、偶然か？</p>



<p>いや、違う。</p>



<p>彼女の手は、確かにこっちに向けられていた。</p>



<p>思い違いじゃない。</p>



<p>そう思うほどに、心臓の音が大きくなる。</p>



<p>放課後、なんとなく窓の外を眺める。</p>



<p>それは、ただの習慣だったはずなのに。</p>



<p>たった一度、手を振られただけで、意味を持ち始めた。</p>



<p>あの日以来、放課後の窓際は、ただの習慣ではなくなった。</p>



<p>授業が終わり、机に置いた手を少し伸ばして、外を見る。</p>



<p>グラウンドでは部活の掛け声が響き、昇降口の前には帰る準備をする生徒たちがいる。</p>



<p>彼女の姿を探す。</p>



<p>自分でも驚くほど、すぐに見つけられた。</p>



<p>たぶん、前からそうだったんだろう。</p>



<p>無意識のうちに、視線で追っていた。</p>



<p>その日も、彼女は友達と歩いていた。</p>



<p>笑いながら話している。</p>



<p>眩しいくらいに、楽しそうだった。</p>



<p>──だけど、一瞬だけ。</p>



<p>ほんの一瞬、彼女の視線が上がる。</p>



<p>そして、また。</p>



<p>小さく、手を振った。</p>



<p>昨日と同じように。</p>



<p>「……っ」</p>



<p>鼓動が早くなるのを感じた。</p>



<p>きっと、思い違いじゃない。</p>



<p>彼女は、窓の向こうにいる自分を見つけている。</p>



<p>だけど、どうして？</p>



<p>なぜ、手を振るんだろう。</p>



<p>友達は、やっぱり不思議そうに彼女を見ている。</p>



<p>「誰に？」</p>



<p>彼女は、それに答えず、小さく笑って歩き出した。</p>



<p>＊</p>



<p>意識するようになってから、些細なことが気になるようになった。</p>



<p>彼女と同じクラスの友達が、楽しそうに話しているのを見た。</p>



<p>彼女の名前が出ると、つい耳が傾く。</p>



<p>些細な情報に、いちいち反応する自分がいる。</p>



<p>それだけじゃない。</p>



<p>廊下でたまたますれ違うとき、どうしたらいいのかわからなくなる。</p>



<p>目が合っても、すぐに逸らしてしまう。</p>



<p>向こうは何も気にしていないのかもしれない。</p>



<p>でも、もし。</p>



<p>もし、彼女も意識していたら。</p>



<p>──そんなことを考えてしまう。</p>



<p>そういう目で見ると、彼女はやっぱり特別だった。</p>



<p>クラスの誰とでも仲が良くて、話しているときは楽しそうで。</p>



<p>それでいて、ふとしたとき、どこか遠くを見ていることがある。</p>



<p>何を考えているんだろう。</p>



<p>何を見ているんだろう。</p>



<p>＊</p>



<p>ある日、窓際に座ると、雨の匂いがした。</p>



<p>天気は曇り。</p>



<p>もうすぐ降り出しそうな、湿った空気。</p>



<p>昇降口の前には、傘を持っている生徒がちらほら。</p>



<p>彼女も、その中にいた。</p>



<p>手には折りたたみ傘。</p>



<p>友達と話しながら、それを広げる。</p>



<p>そして、また。</p>



<p>一瞬だけ、こちらを見上げた。</p>



<p>窓越しに、静かに見つめ合う。</p>



<p>手は振らなかった。</p>



<p>でも、それだけで十分だった。</p>



<p>雨が降り出す。</p>



<p>音もなく、静かに。</p>



<p>彼女はゆっくりと傘を開いた。</p>



<p>友達と並んで歩き出す。</p>



<p>自分は、その背中をただ見つめていた。</p>



<p>＊</p>



<p>「誰かを、好きになるって、どんな感じなんだろう」</p>



<p>そう思ったのは、たぶんこのときが初めてだった。</p>



<p>この気持ちは、何かの名前をつけられるものなのか。</p>



<p>それとも、ただの偶然が積み重なっただけなのか。</p>



<p>──もし、窓越しの手が、最初からなかったら。</p>



<p>自分は、彼女を意識することはなかったのかもしれない。</p>



<p>だけど。</p>



<p>たった一度、振られた手が。</p>



<p>視線が。</p>



<p>心のどこかに、静かに残ってしまった。</p>



<p>＊</p>



<p>それから何度か、窓越しに視線が合うことはあった。</p>



<p>彼女は何も言わず、ただ、少しだけ笑ったり、視線をそらしたりした。</p>



<p>自分も、何もできなかった。</p>



<p>言葉にしないまま、過ぎていく時間。</p>



<p>季節が変わる頃、ふと気づくと、あの時間はもうなかった。</p>



<p>彼女を目で追うことも、窓越しに視線を交わすことも、もうなくなっていた。</p>



<p>何もなかったように。</p>



<p>まるで最初から、そんな時間が存在しなかったみたいに。</p>



<p>だけど。</p>



<p>今でも、ふとした瞬間に思い出す。</p>



<p>放課後、窓の向こうにいた彼女の姿を。</p>



<p>何も言わずに、ただ小さく手を振った、その瞬間を。</p>



<p>きっと、忘れられないままなんだと思う。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>
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