Fishing Diary #1

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 静かな朝、穏やかな海

 朝5時前。まだ街は眠りの中にある。ひんやりとした潮風を感じながら、いつもの釣り場へ向かった。

 岸壁に立ち、ゆっくりと海を眺める。今日は波がほとんどなく、まるで湖のような穏やかさだ。風も弱く、釣りには最高のコンディション。

 「いい感じだな」

 静かな海に仕掛けを落とすのは、どこか神聖な儀式のように感じる。今日はブラクリ仕掛けにオキアミをセット。壁際のカサゴを狙う。

 そっと仕掛けを沈める。オキアミがスルスルと水中に消えていき、しばらくすると、竿先にわずかな振動が伝わった。

 ──コツ、コツ。

 「……きた」

 軽く竿を持ち上げ、アタリを確認する。しばらく待って、グッと重みが増した瞬間、素早くアワセる。

 グングンッ。

 手元に魚の抵抗が伝わる。そこまで強くはないが、確かな生命の重みが感じられる。ゆっくり巻き上げると、茶褐色の魚体が海面に浮かび上がった。

 「カサゴ、いいサイズ」

 棘のあるヒレに気をつけながら針を外し、バケツへ入れる。しばらく暴れたあと、ゆっくりと水底に沈んでいった。

 再び仕掛けを投入する。今の調子なら、もう少し釣れそうだ。

 ──コツコツ。

 少しラインを巻いて待つ。すると、竿先がグイッと引き込まれる。今度はさっきよりも力強い。慎重に巻き上げると、またしてもカサゴ。

 「二匹目、順調だな」

 その後もアタリは続き、合計四匹を釣り上げたころ、東の空がうっすらと朱に染まり始めていた。

 「そろそろ、いい時間かな」

 バケツの中を覗くと、釣れたばかりのカサゴがゆっくりと泳いでいる。これだけあれば、じゅうぶんだ。

 道具を片付け、最後にもう一度静かな海を眺める。朝焼けが海面に映り、ゆらゆらと揺れていた。

 「さあ、帰って料理だ」

 これから、最高の時間が待っている。

 家に帰ると、まずはバケツの中を覗いた。

 茶褐色のカサゴがゆらゆらと泳ぎ、時折、口をパクパクと動かしている。その姿を見ながら、ふと思う。

 「ありがとう。美味しくいただくよ」

 釣った魚を味わう。それもまた、釣りの醍醐味だ。

 まな板の上にカサゴを一匹乗せ、包丁を手に取る。

 「ザッ、ザッ」

 包丁の背で鱗を落とすと、小さな銀色の欠片が飛び散る。指でなぞると、滑らかな感触。次にエラを外し、腹を割く。

 ぷるん、とした内臓がこぼれ出た。その中に、ひときわ鮮やかな黄色の卵。

 「やっぱり抱卵してたか」

 慎重に取り出し、アラと一緒に味噌汁用に分ける。身の方は水気をしっかり拭き取り、刺身用に整えていく。

 カサゴの身は淡白で、噛むほどに旨味が広がる。せっかくだから、半分は炙りにしよう。

 薄く切った刺身をバットに並べ、バーナーを手に取る。

 シュッ──

 青い炎が皮目をなぞり、ジュワッと脂が弾ける。魚の香ばしい匂いがふわりと立ちのぼり、食欲をそそる。

 「……これは絶対うまいな」

 いい感じに焼き色がついたら、軽く塩を振る。

 皿に盛り付けると、透き通るような生の白身と、炙られてこんがりとした皮目のコントラストが美しい。

 仕上げに味噌汁を作る。

 鍋に水を張り、カサゴのアラを入れて火にかける。煮立つと、澄んだ水が次第に白濁し、旨味がじんわりと染み出していく。そこへ取り分けた卵を加え、味噌を溶く。

 「よし、完成」

 炙り刺しとカサゴの味噌汁。釣り人だけが味わえる、最高のごちそうだ。

 さっそく、いただく。

 まずは、炙り刺しをひと切れ。

 噛むと、皮目の香ばしさが先に広がり、その後にじんわりとした甘みが舌に染み込む。生の部分はしっとりとしていて、皮の香ばしさと絶妙に絡み合う。

 「うん、うまい」

 次に味噌汁をひと口すする。

 魚の旨味が溶け出した濃厚な出汁に、味噌の優しい風味が合わさる。カサゴの卵はぷちっと弾け、ほのかな甘みが口の中に広がる。

 「やっぱり、自分で釣った魚は格別だな」

 そう呟きながら、ゆっくりと箸を進める。

 海と向き合い、魚と向き合い、最後に料理と向き合う時間。

 この一連の流れこそが、釣りの楽しさなのだと改めて感じる。

 さて、次はどんな魚を釣ろうか──。


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