
昼休みの教室。窓の外から春の陽射しが差し込み、穏やかな空気が流れている。
悠斗は自分の席に座り、適当に弁当のフタを開けた。ハンドボール部の朝練を終えた後の昼飯は、いつも以上にうまく感じる。
「悠斗、また適当に食べてるでしょ」
目の前に座ってきたのは菜月だった。
「……適当ってなんだよ」
「ほら、今日もまたおにぎりとから揚げだけ?」
「栄養バランスは完璧だろ」
「全然完璧じゃないから」
菜月は呆れたようにため息をつき、自分の弁当のフタを開ける。
「ほら、私の卵焼き食べる?」
「なんで?」
「悠斗って甘いの好きでしょ?」
「……なんで知ってんだよ」
「知ってるよ、それくらい」
菜月は何気なく、自分の弁当から小さな卵焼きをつまみ、悠斗の弁当の端に置いた。
「ほら、遠慮しないで」
「……いや、まぁ、もらうけど」
悠斗はぼそっと呟きながら、菜月からもらった卵焼きを口に運んだ。
「……うまい」
「でしょ?」
菜月が得意げに笑う。
「ねぇ、悠斗」
弁当を食べ終えた菜月が、ふと顔を上げる。
「ん?」
「シャーペン貸してくれない?」
「また忘れたのかよ」
「忘れたんじゃなくて、落としちゃったの!」
「どっちも同じだろ」
悠斗はため息をつきながら、自分の筆箱を開ける。
「ほら」
「ありがとう!」
菜月はシャーペンを受け取ると、試しにカチカチとノックする。
「あ、これ使いやすいね」
「だろ?」
「もらっていい?」
「ダメに決まってんだろ」
悠斗がジト目で睨むと、菜月は「冗談冗談」と笑った。
「でも、悠斗の持ち物って意外とちゃんとしてるよね」
「意外とってなんだよ」
「だって、見た目は適当そうだから」
「お前、それは失礼すぎるだろ」
二人はそんなやり取りを続けながら、昼休みの時間を過ごした。
「そういえばさ」
しばらくシャーペンを使いながら菜月が、ふと顔を上げた。
「ん?」
「悠斗って、将来のこととか考えてる?」
「将来?」
「うん。大学とか、ハンドボール続けるのかとか」
「……あんまり深くは考えてねぇな」
悠斗はペンを回しながら、ぼんやりと考える。
「でも、今はハンドボールが一番大事って思ってる」
「そっか」
「お前は?」
「私は……どうしようかな」
菜月は窓の外を見ながら呟く。
「ハンドボールは好きだけど、ずっと続けられるわけじゃないし……」
「お前がそんなこと言うとは思わなかった」
「私だって考えるよ」
菜月は笑う。
「でもね、今はまだ先のことは分かんないけど……」
「うん」
「今は、悠斗と一緒に全国を目指したいって思ってる」
その言葉に、悠斗は一瞬驚いたように目を瞬かせた。
「お、おう」
「だから、これからも頑張ろうね、悠斗」
菜月がニッと笑う。
悠斗は少しだけ視線を逸らしながら、照れくさそうに頷いた。
「……ああ、頑張るか」
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