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	<title>メッセージ | NOVEL ROOM</title>
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	<title>メッセージ | NOVEL ROOM</title>
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		<title>『Reply』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 23 Mar 2025 15:03:48 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Lyric Novel]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[再会]]></category>
		<category><![CDATA[青春小説]]></category>
		<category><![CDATA[メッセージ]]></category>
		<category><![CDATA[名前のない関係]]></category>
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					<description><![CDATA[　最後に並んで歩いたのは、卒業式の日だった。　　ふたりきりで歩いた帰り道。手はつながなかったけど、近かった。 　付き合ってたわけじゃない。　でも、まわりからはそう見られていたし、私たちもどこかで、そうなりかけていたのかも [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
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<p>　最後に並んで歩いたのは、卒業式の日だった。<br>　<br>　ふたりきりで歩いた帰り道。手はつながなかったけど、近かった。</p>



<p>　付き合ってたわけじゃない。<br>　でも、まわりからはそう見られていたし、私たちもどこかで、そうなりかけていたのかもしれない。</p>



<p>　あと一歩ずつ踏み出していたら、“そういう関係”になっていたのかも。</p>



<p>　一度だけ、彼がぽつりとつぶやいた。</p>



<p>「俺たちって、なんなんだろうな」</p>



<p>　私は、何も答えられなかった。<br>　そのことがずっと、心のどこかに引っかかっていた。</p>



<p>　あのとき、なにか言えていたら。<br>　ちゃんと、形にできていたら。</p>



<p>　今ごろは、違う場所に立っていたのかな。<br>　そんなことを、いまだに考えてしまう自分がいた。</p>



<p>　新学期が始まって、彼とは違うクラスに。</p>



<p>　廊下で会えば、軽く手を振るくらいの関係。<br>　会話なんて、もう何日してないか覚えていない。</p>



<p>　今さら話しかけるのも、なんか変な感じで。<br>　目が合いそうになったら、ついそらしてしまう。</p>



<p>　たぶん、向こうも同じこと思ってるんだろうな。</p>



<p>　スマホの通知が鳴らない日が、続いている。<br>　トーク履歴の一番上に、彼の名前だけが残ったまま。</p>



<p>　最後に「おつかれ」って送ったのは、一週間前。<br>　既読はついた。でも、それきり。</p>



<p>“なんで返信くれないの？”なんて、言いたいわけじゃない。<br>　でも、“待ってるって気づいて”とも、やっぱり言えなかった。</p>



<p>　何かを送っても、もう届かないような気がして。</p>



<p>　それでも何かを送りたくて。</p>



<p>　画面を開いては閉じる、それだけの毎日が続いていた。</p>



<p>　昼休み、友達と話していても、ふと彼の声を探してしまう。</p>



<p>　遠くで誰かが笑っているだけで、「あ」って振り向きたくなる。<br>　でもそんなときに限って、そこに彼はいない。</p>



<p>「ねえ、またボーッとしてたでしょ？」</p>



<p>　からかうように笑う友達に、私は曖昧に笑って返す。</p>



<p>「んー、なんでもないよ」</p>



<p>　そのセリフを繰り返すようになったのは、いつからだったんだろう。</p>



<p>　放課後、校門の近くで、彼とすれ違った。</p>



<p>　スマホを見ながら歩いてくる彼に、思わず声をかけようとしたけど、足が止まる。</p>



<p>　すれ違いざま、一瞬だけ目が合った。<br>　でも彼は、なにも言わずに通り過ぎていった。</p>



<p>「元気？」それすら、言えなかった。</p>



<p>　喉の奥に引っかかった言葉は、声になる前に消えてしまった。</p>



<p>　小さくため息をついて、イヤホンを取り出す。<br>　音楽に耳をふさがれるのを待つみたいに、指がプレイリストを選んだ。</p>



<p>　流れてきたのは、彼と一緒に聴いていた曲だった。<br>　夏の終わり。ふたりで電車に揺られながら聴いた、あの曲。</p>



<p>　彼は笑ってこう言ってた。<br>「この曲、歌詞ダサいけど、なんか好き」</p>



<p>　なんでもない思い出。<br>　でも今は、その記憶が胸に痛い。</p>



<p>　帰宅して、部屋の電気もつけずにベッドに沈む。<br>　スマホの画面をぼんやりと見つめている。</p>



<p>　通知は、まだ来ていない。</p>



<p>　彼の名前をタップして、トーク画面を開く。<br>　最後の「おつかれ」の吹き出しの下に、既読のチェックマークがひとつだけ、静かに居座っていた。</p>



<p>　もう、なにを送ればいいかわからない。<br>　でも、なにも送らないままでいるのも、苦しかった。</p>



<p>……なにやってんだろ。</p>



<p>　また同じ言葉が、頭の中をぐるぐるしてる。</p>



<p>　そのときだった。<br>　画面がふっと光った。</p>



<p>　1件の新着メッセージ。</p>



<p>　手が止まる。呼吸が止まる。<br>　そこに表示されたのは――彼の名前だった。</p>



<p>“元気にしてる？”</p>



<p>　たった一行だった。<br>　シンプルで、軽いようにも見えた。</p>



<p>　でも、胸の奥にじんと響いて、しばらく動けなかった。</p>



<p>　既読がついたとき、彼はどんな顔をしていたんだろう。<br>　通知を見た瞬間、ちょっとは迷ったりしてたのかな。</p>



<p>　スマホの画面を閉じても、頭の中にはその言葉が浮かび続ける。</p>



<p>“元気にしてる？”</p>



<p>　何度も見たはずなのに、目を離せなかった。</p>



<p>　なんて、ずるい言葉なんだろう。</p>



<p>　この一週間、ずっと考えていた。<br>　何度も言葉を打ちかけては消して、何も返ってこないままの画面を見つめ続けてきた。</p>



<p>　その間、彼からは一言もなかったのに。</p>



<p>　今さら、こんなふうに一行だけで現れるなんて。</p>



<p>　軽そうに見えるその文字が、どうしようもなく重たく感じた。</p>



<p>……どういう気持ちで送ったんだろう。</p>



<p>　懐かしさ？　優しさ？　それとも、ただの気まぐれ？</p>



<p>　考えてもわからないくせに、頭の中では答えを探してしまう。</p>



<p>　でも、無視はできなかった。</p>



<p>　ベッドの上でスマホを両手で持ち直す。<br>　返信画面を開いたまま、時間だけが過ぎていく。</p>



<p>“うん、元気だよ”<br>　それだけでもいいはずなのに、指が止まる。</p>



<p>　本当は元気なんかじゃなかった。<br>　彼の既読がついたあの日から、ずっと。</p>



<p>　言えなかったことも、聞けなかったことも、たくさんある。</p>



<p>　でも、それ以上に――たった一言じゃ伝えきれない気持ちのほうが多すぎた。</p>



<p>　イヤホンをつけて、またあの曲を流す。<br>　彼が「ダサいけど好き」って言ってた、あの歌。</p>



<p>　昔は何も思わなかった歌詞が、今は妙に刺さる。<br>　あのとき、ちゃんと聴いておけばよかった。</p>



<p>　あの人を、もう少しちゃんと見ていればよかった。</p>



<p>　スマホに視線を戻すと、画面にはまだ、彼からのメッセージが残っていた。</p>



<p>“元気にしてる？”</p>



<p>　何度読んでも、胸がざわつく。<br>　あたたかいようで、さみしいようで、泣きたくなるような。</p>



<p>　どうしようもなく迷った末に、打ち込んだ。</p>



<p>「なんで今なの？」</p>



<p>　送信ボタンを押す指が、少しだけ震えた。<br>　でも、その揺れごと、全部送りたかった。</p>



<p>　既読がついたのは、ほんの数秒後だった。</p>



<p>　画面を伏せて、目を閉じる。<br>　今日は、それだけでよかった。</p>



<p>　＊　＊　＊</p>



<p>　その夜、スマホの光で目を覚ました。<br>　画面には、新しい通知。</p>



<p>　彼からだった。</p>



<p>「ごめん。<br>タイミングとか考えてなかった。<br>でも最近、昔のことばっか思い出してた」</p>



<p>　文章は短かったけど、彼なりに考えた末の言葉なんだろうって思った。</p>



<p>　“昔のことばっか思い出してた”</p>



<p>　たったそれだけなのに、胸の中で何かがふっとほどける。</p>



<p>　今さらって思ってたはずなのに。<br>　こんなにも簡単に気持ちが揺れるなんて。</p>



<p>　ほんと、ずるい。</p>



<p>　でも、うれしかった。<br>　それはもう、認めるしかなかった。</p>



<p>　朝、目が覚めてすぐにスマホを手に取った。<br>　メッセージの続きを考えている自分に、少しだけ笑う。</p>



<p>　昨日まで、名前を見るだけで苦しくなっていたのに。<br>　今日は、通知が来るのを待っている。</p>



<p>　打ち込んだ言葉は、本当に何気ないものだった。</p>



<p>「そっか。思い出されてたのか、私」</p>



<p>　照れ隠しのつもりで少しだけ冗談っぽくしてみた。<br>　たぶんバレるんだろうけど、それでもいいと思えた。</p>



<p>　昼過ぎ、授業中。<br>　教科書をめくるふりをしながら、スマホがわずかに震えたのがわかった。</p>



<p>　“思い出させるようなことばっか、今も残ってるからさ”</p>



<p>　画面に浮かんだその一文に、心が静かにあたたかくなる。</p>



<p>　なんでもない会話のやりとり。<br>　でも、少しずつふたりの距離が戻っていくような気がした。</p>



<p>　その日から、彼とのやりとりはぽつぽつと続いた。<br>　毎日じゃないし、返事がすぐ来るわけでもない。</p>



<p>　それでも、通知に彼の名前が浮かぶたびに、<br>　息を吸い直すような気持ちになる。</p>



<p>　こうして何気ないやりとりを重ねていく中で、<br>　少しずつ、言葉にしなくても伝わるものがあるような気がしていた。</p>



<p>　夜、ベッドに寝転びながらスマホを眺める。<br>　彼とのトーク画面は、少しずつ会話の履歴で埋まっていく。</p>



<p>　ゆっくりだけど、たしかに前に進んでいる気がした。</p>



<p>　既読がすぐにつかなくてもいい。<br>　返事が少し遅くてもいい。</p>



<p>　ただ、また繋がっていることが、今はなによりうれしかった。</p>



<p>　そんなときだった。<br>　彼から届いたメッセージの通知が、ふいに胸をざわつかせた。</p>



<p>“ねえ、今度さ”</p>



<p>　それだけ。<br>　続きの言葉はまだなかった。</p>



<p>　その一行に、思わずスマホを持つ手が止まる。</p>



<p>　すぐに返信は来ない。<br>　でも、その「……」の向こうにある気持ちを、<br>　勝手に想像してしまう自分がいた。</p>



<p>　しばらくして、画面が再び光った。</p>



<p>“やっぱ、今度会わない？”</p>



<p>　言葉を見た瞬間、胸の中がじんわりあたたかくなる。<br>　“やっぱ”ってつけるところが、彼らしくて、なんか笑ってしまった。</p>



<p>　だけど、返事はすぐには打てなかった。</p>



<p>　うれしいはずなのに、どこかで少しだけ、こわいと思ってる自分がいた。</p>



<p>　また前みたいにすれ違ってしまったらどうしよう。<br>　ちゃんと話せなかったら、また離れてしまうんじゃないか。</p>



<p>　そんな予感が、少しだけ背中を引っぱった。</p>



<p>　でも、それでも。</p>



<p>　会いたい気持ちは、ちゃんとそこにあった。</p>



<p>「うん。いいよ」</p>



<p>　結局、返した言葉はとてもシンプルだった。<br>　でも、それ以上はいらない気がした。</p>



<p>　その夜、スマホを伏せて目を閉じた。</p>



<p>　眠れそうになかったけど、<br>　それでも、不思議と、心は静かだった。</p>



<p>　日曜の午後、駅前のカフェ。</p>



<p>　ここは、ふたりで何度か来た場所だった。<br>　窓際の席に座って、店員さんに「付き合ってるんですか？」って聞かれて、照れたことがある。</p>



<p>　そんなことを思い出してしまって、ちょっと足が重くなったけど、<br>　ガラス越しに彼の姿が見えた瞬間、胸の奥がすっと軽くなった。</p>



<p>　いつもと同じ。<br>　でも、どこか少しだけ大人びて見えた。</p>



<p>　扉を開けると、彼がすぐに気づいて、軽く手をあげた。<br>　懐かしい仕草に、胸がきゅっとなる。</p>



<p>「……ひさしぶり」</p>



<p>「うん。……ひさしぶり」</p>



<p>　たったそれだけなのに、ふたりとも少し笑ってしまった。<br>　学校では顔を合わせているのに、こうしてちゃんと向かい合うのは、本当に久しぶりだった。</p>



<p>　メニューを開いているふりをしながら、心臓の音をごまかす。<br>　変な沈黙が流れないように、自然と口を開いた。</p>



<p>「ここ、変わってないね」</p>



<p>「うん。BGMまで、なんか前と同じだし」</p>



<p>　ふたりで笑って、なんとなく肩の力が抜けた。</p>



<p>「緊張してた？」</p>



<p>「ちょっとだけ」</p>



<p>「私も」</p>



<p>　コーヒーが運ばれてきて、湯気がゆらゆらと揺れる。<br>　その向こうにある彼の横顔を、目が勝手に追いかける。</p>



<p>「ちゃんと話すこと決めてきたわけじゃないんだけどさ」</p>



<p>　彼がカップを置いて、少しうつむきながら言う。</p>



<p>「……一回、ちゃんと会って話したかった」</p>



<p>「うん」</p>



<p>「返事しなかったこと、ずっと気になってて。<br>　既読つけたまま放置してたの、自分でもひどいと思ってた」</p>



<p>「……私も。<br>　なに送っても届かない気がして、結局なにも言えなかった」</p>



<p>　お互い、ちょっとだけ照れて笑った。<br>　でも、その笑いには、たしかにほぐれていく空気があった。</p>



<p>　ふと彼がポケットからイヤホンを取り出して、スマホを差し出してくる。</p>



<p>「これ、あのとき聴いてたやつ。まだ入ってた」</p>



<p>　片耳ずつ、イヤホンを分け合う。<br>　流れてきたのは、あの夏の終わりに、電車の中で一緒に聴いていた曲だった。</p>



<p>　彼が「ダサいけど、なんか好きなんだよな」って笑ってたやつ。<br>　あの頃は、ただのBGMだった。</p>



<p>　でも今は、メロディが胸の奥を撫でるように響いてくる。<br>　耳からではなく、心で聴いているような感覚だった。</p>



<p>　曲が終わる頃、彼が小さな声で言った。</p>



<p>「……これ聴くと、思い出すんだよね。いろいろ」</p>



<p>「うん、わかる」</p>



<p>　それ以上、言葉はなかった。<br>　でも、その“わかる”の中に、いろんな気持ちが詰まっていた。</p>



<p>　カフェを出ると、外の空気は少し冷たくなっていた。<br>　夕暮れの色がビルの隙間に滲んで、駅までの道が静かに染まっていく。</p>



<p>　彼は何も言わずに歩き出した。<br>　私はそのすぐ隣に並ぶ。</p>



<p>　特別なことはなにもない。<br>　でも、久しぶりに並んで歩くこの距離が、やけに心地よかった。</p>



<p>「……あの曲、まだ聴いてたんだね」</p>



<p>　ふと口にすると、彼はちょっと照れくさそうに笑った。</p>



<p>「うん。懐かしいやつばっか、残ってる」</p>



<p>「そういうとこ、変わってないね」</p>



<p>「たぶん一生このままだと思う」</p>



<p>　笑い合ったあと、ふたりの間にまた沈黙が流れた。<br>　でも、それは重くもなく、むしろ優しい静けさだった。</p>



<p>　信号待ちのタイミングで、彼がスマホを取り出す。<br>　ちらっと見えた画面には、グループLINEの通知が溜まっていた。</p>



<p>　でも彼は、それをすぐに閉じて、またポケットにしまった。</p>



<p>「あのさ、」</p>



<p>「ん？」</p>



<p>「もし……あのとき、“好き”って言ってたら、どうなってたかな」</p>



<p>　唐突すぎて、でも不思議と驚きはなかった。<br>　むしろ、“今なら答えてもいい”って思った。</p>



<p>「たぶん……うまくはいかなかったかも」</p>



<p>　そう言って、少し笑って続けた。</p>



<p>「でも、言われてたら。<br>　私は、たぶん、すごくうれしかったと思う」</p>



<p>　彼が視線をそらす。<br>　その横顔は、ほんの少しだけ、くやしそうに見えた。</p>



<p>「……なんか、悔しいな、それ」</p>



<p>　照れたような笑い。<br>　でも、その言葉には、ちゃんと気持ちが滲んでいた。</p>



<p>「今なら……言ってもいいの？」</p>



<p>「……どうしてほしい？」</p>



<p>　返した声は、思ったよりも冷静だった。<br>　でも、心臓の音だけは、ちゃんと高鳴っていた。</p>



<p>　彼は少しだけ黙って、空を見上げるようにして、静かに笑った。</p>



<p>「……わかんないけどさ。<br>　こうやって、また一緒に歩いてるの、悪くないなって思ってる」</p>



<p>　付き合ってるわけじゃない。<br>　昔の恋人でもない。</p>



<p>　でも、今この瞬間のふたりには、名前がなくてもちゃんと意味がある気がした。</p>



<p>　それでいいって思えた自分に、少しだけ驚いていた。</p>



<p>　駅のホームに着いたとき、ちょうど電車が滑り込んできた。</p>



<p>「じゃあ、また連絡する」</p>



<p>「うん。……待ってるから」</p>



<p>　そう言うと、彼が照れたように笑ってくれた。<br>　その笑顔を見て、なんとなく、またすぐに会える気がした。</p>



<p>　反対方向の電車に乗る彼がドアの向こうで手を振る。<br>　私も、そっと手を振り返した。</p>



<p>　ドアが閉まって、電車が走り出す。</p>



<p>　その瞬間。<br>　“前とは違う今日”が、そっと始まっていた気がする。</p>



<p>　家に帰って、スマホを開いた。</p>



<p>　少しだけ期待していたその画面に、通知がひとつ届いていた。</p>



<p>「今日、ありがとう。<br>　また歩こうぜ」</p>



<p>　たったそれだけのメッセージ。<br>　でもその文字の余韻が、胸の奥をじんわりあたためていく。</p>



<p>　指が自然と動いていた。</p>



<p>「うん。またね」</p>



<p>　今は、それで十分だった。</p>



<p>　その日から、彼とのやりとりはぽつぽつと続いた。</p>



<p>　毎日じゃない。<br>　返事がすぐ来るわけでもない。</p>



<p>　でも、通知に彼の名前が浮かぶたびに、呼吸をひとつ、深く吸いなおすような気持ちになる。</p>



<p>　話すことは、本当に他愛もないことばかり。</p>



<p>　新しく出たアイスの話。<br>　校内放送で流れてきた、あの曲のこと。<br>　電車でとなりの人が寝てきたとか、どうでもいいような話。</p>



<p>　だけどその“どうでもいい”のやりとりの中に、たしかにあの頃の空気があった。<br>　少しずつ、でもちゃんと、言葉にできないまま伝わっていく何かがあった。</p>



<p>　ある日、彼から写真が送られてきた。<br>　コンビニのおでんと、くだらない自撮り。</p>



<p>『まだ熱かった』</p>



<p>　そんなコメントに、思わず笑ってしまった。</p>



<p>『バカじゃん』</p>



<p>　そう返すと、すぐに『知ってる』って返事が届く。</p>



<p>　やっぱり、なんにも変わってない。<br>　だけど、少しだけ変わってる。</p>



<p>　それが、なんだかうれしかった。</p>



<p>　季節は、静かに次のページをめくるように変わっていく。</p>



<p>　ふたりの関係は、まだ名前もなくて。<br>　曖昧で、定義もなくて。</p>



<p>　だけど、もうそれでいいって思えるくらいには、大人になっていた。</p>



<p>　夜。ベッドに寝転びながら、彼からのメッセージを見返す。<br>　どの言葉にも、ちゃんと“今の気持ち”がにじんでいた。</p>



<p>　未読だった時間が、少しずつ塗り替えられていく感覚。<br>　私の中に、ちゃんと今の“彼”が存在していく。</p>



<p>　そんなある日、少しだけ長いメッセージが届いた。</p>



<p>「お前ってさ、<br>　あんま人のこと、好きにならなそうだよね」</p>



<p>　その続きに、少し間を空けて、もうひとこと。</p>



<p>「俺もそうだった。<br>　でもさ……たぶん一回だけ、本当にそうなりかけてたんだと思う」</p>



<p>　スマホを持つ手が止まった。</p>



<p>　すぐには返せなかった。<br>　でも、不思議と苦しくはなかった。</p>



<p>　むしろ、静かに、あたたかいものが胸に流れていった。</p>



<p>　あの卒業式の帰り道。<br>　彼が「俺たちって、なんなんだろうな」って言ったとき。<br>　私が何かひとことでも返せていたら、きっとなにかが変わっていたのかもしれない。</p>



<p>　でも、もしあのとき付き合っていたとしても、きっと、うまくはいかなかったと思う。</p>



<p>　あのときの私たちは、まだ何も知らなかったから。</p>



<p>　恋じゃなくても。<br>　恋人じゃなくても。</p>



<p>　ちゃんと、たいせつな関係がある。</p>



<p>　今、それがわかる。</p>



<p>　そう思わせてくれたのが、ほかでもない彼だった。</p>



<p>　スマホを胸の上に置いたまま、目を閉じた。</p>



<p>　通知が鳴らない夜に、こんなふうに安らげるようになるなんて。</p>



<p>　理由はわからないけど、自然にそう思えた。</p>



<p><br>　週末、ふたたび同じカフェで会うことになった。<br>　前と同じ、窓際の席。角の静かな場所。</p>



<p>　あのときと同じ景色のはずなのに、光の入り方も、流れる空気も、なんとなく違って感じる。</p>



<p>　たぶん、私たちのなかにあるものが、少しずつ変わってきたからだ。</p>



<p>　彼はグラスの水をゆっくり揺らしながら、ふいに言った。</p>



<p>「もしさ、またふたりでどっか行くとしたら……どこがいい？」</p>



<p>「どこでもいいよ」</p>



<p>　そう答えたあと、少しだけ考えてから、言葉を足した。</p>



<p>「人が少なくて、静かで、時間がゆっくり流れるようなとこ。<br>　なんか、いまの私たちにちょうどいい気がする」</p>



<p>　彼が笑って「たしかに」って言った。</p>



<p>　この空気が、今のふたりにちゃんと馴染んでいるのがうれしかった。</p>



<p>　帰り道。<br>　彼の手が、ふと私の手の近くに来た。触れはしなかったけれど、その距離がとても自然だった。</p>



<p>　この距離のまま、歩いていたいと思った。</p>



<p>　言葉を交わさなくても、ちゃんと伝わる何かがあるような気がしていた。</p>



<p>　改札の前で立ち止まる。</p>



<p>「じゃあ、またね」</p>



<p>　私がそう言うと、彼は少し黙って、それからやさしく笑って言った。</p>



<p>「うん。じゃあ、また連絡するわ」</p>



<p>　その一言が、いまの私たちのすべてだった。</p>



<p>　名前のないままでもいい。<br>　未完成なままでも、確かに続いている。</p>



<p>　夜、ベッドに寝転びながらスマホを見つめる。<br>　今日のやりとりを何度も見返していると、また画面がふわりと光った。</p>



<p>《1件の新着メッセージ》</p>



<p>　開かなくても、たぶんわかっていた。</p>



<p>　そっと画面をタップすると、そこには一言。</p>



<p>「今日は、いい日だったな」<br>　<br>　胸の奥が、静かに鳴る。</p>



<p>　私の指が、自然と動いた。</p>



<p>「うん。また歩こう」</p>



<p>　それだけで、心がそっと満たされた気がする。</p>



<p>　通知が鳴るたびに、この関係を少しずつ好きになっていける。</p>



<p>　たとえ“恋人”じゃなくても、名前がつかなくても。</p>



<p>　今は、君のいる静けさが、少しだけうれしい。</p>



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