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	<title>片想い | NOVEL ROOM</title>
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	<title>片想い | NOVEL ROOM</title>
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		<title>『ひとつ前の場所で』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 03 Apr 2025 02:09:10 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[リクエスト作品]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[青春恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[学園ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[泣ける小説]]></category>
		<category><![CDATA[秘密の関係]]></category>
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					<description><![CDATA[　いつからだったか、私は“ひとりの場所”にいることが多くなっていた。 　教室の端。誰も使わない席の隣。 　昼休みの図書室。廊下に面した窓際の階段。 　そこにいると、誰にも話しかけられないし、私も誰とも目を合わせずに済んだ [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img fetchpriority="high" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/04/c81b55d6f2cbad345d0d866bcc5f796c.jpeg" alt="" class="wp-image-2324" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/04/c81b55d6f2cbad345d0d866bcc5f796c.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/04/c81b55d6f2cbad345d0d866bcc5f796c-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>　いつからだったか、私は“ひとりの場所”にいることが多くなっていた。</p>



<p>　教室の端。誰も使わない席の隣。</p>



<p>　昼休みの図書室。廊下に面した窓際の階段。</p>



<p>　そこにいると、誰にも話しかけられないし、私も誰とも目を合わせずに済んだ。</p>



<p>　「自分から輪に入ればいい」なんて――そんなに簡単な話じゃなかった。</p>



<p>　誰かと話していても、心のどこかで“浮いてる”のを自覚してた。<br>　声のトーン、話題のセンス、反応の速さ。<br>　どれも、うまく馴染めない。</p>



<p>　でも、それでもいいと思っていた。<br>　無理して合わせるよりは、ひとりでいたほうが楽だったから。</p>



<p>　そんな日々の中、<br>　――彼は、何の前触れもなく声をかけてきた。</p>



<p>　「その本、おもしろい？」</p>



<p>　振り返ると、クラスの男子が立っていた。<br>　名前は、陽斗（はると）くん。<br>　特別目立つタイプでもないけど、どこか落ち着いてて、<br>　授業中もいつも静かにノートを取っている人。</p>



<p>　「え、あ……うん。まあ、普通かな」<br>　思わず声が裏返る。</p>



<p>　彼は、にこっと笑って、<br>　「そういう“普通”って実は一番面白かったりするよね」<br>　って言った。</p>



<p>　なんだそれ、って笑いそうになったけど、うまく笑えなかった。</p>



<p>　「……そうだね」</p>



<p>　小さくうなずいた私に、それ以上なにも言わずに、彼は隣の席に腰を下ろして、自分の本を開いた。</p>



<p>　それだけだった。</p>



<p>　でも、私はその日、心の中で何度もあの言葉を反芻してた。</p>



<p>　“その本、おもしろい？”</p>



<p>　それは、誰からも向けられなかった言葉だった。</p>



<p>　次の日も、図書室の窓際に座っていると、<br>　彼がふらっと現れて「また会ったね」と笑った。</p>



<p>　それからのことは、よく覚えていない。<br>　気づけば、毎週のようにそこで顔を合わせていたし、彼が座ることも、話しかけてくれることも、当たり前みたいに感じるようになっていた。</p>



<p>　でも、本当は当たり前じゃない。</p>



<p>　あの教室で、私にまっすぐ声をかけてくれたのは、彼だけだった。</p>



<p>　<br>　最初に気づいたのは、隣の席の子のほんのわずかな視線だった。</p>



<p>　授業が終わって、プリントを回すとき。</p>



<p>　一瞬、目が合って、それからそらされる。<br>　そのあと、友達と何かをひそひそと話している。</p>



<p>　たぶん、彼と図書室で話してるのを見られたんだ。</p>



<p>　別に悪いことをしてるわけじゃない。<br>　でも、そんなふうに見られるのは、やっぱり少し怖かった。</p>



<p>　「……噂になってるかも」</p>



<p>　放課後、いつもの図書室の席で、彼が言った。</p>



<p>　「えっ……やっぱり？」</p>



<p>　私は思わず声をひそめた。</p>



<p>　「まあ、目立つよね…ふたりでいるの、毎回同じ場所だし」</p>



<p>　彼はそう言って、本を閉じた。</p>



<p>　私はうつむいたまま、何も言えなかった。</p>



<p>　「嫌だった？」</p>



<p>　静かな声が降ってくる。</p>



<p>　「……ううん」</p>



<p>　本当は、少しだけうれしかった。</p>



<p>　誰かと一緒にいることで、誰かに見られること。</p>



<p>　彼と並んでいる自分を、誰かが気にしているという事実。</p>



<p>　そんな小さな出来事が、自分を“存在している”と思わせてくれた。</p>



<p>　だけどそれを、正直に口にする勇気はなかった。</p>



<p>　「……でも、もう話さないほうがいいかも」<br>　ぽつりと、私が言った。</p>



<p>　彼は少しだけ黙って、それから、<br>　「じゃあ、人前じゃ話さない。放課後だけね」<br>　と微笑んだ。</p>



<p>　その笑顔に、なぜだか涙が出そうになった。</p>



<p>　それからの私たちは、図書室ではなく、校舎裏のフェンス沿いや、帰り道の途中の公園。</p>



<p>　お互いのスマホに送る短いメッセージ――<br>　人目につかない場所で、少しずつ言葉を交わし　<br>　ていった。</p>



<p>　誰にも知られない関係。</p>



<p>　でも、それは私にとって、確かに“特別なも　<br>　の”になっていった。</p>



<p>　目が合えば少し微笑むようになった。<br>　名前を呼ばれるだけで、なんだか安心するよう　　<br>　になった。</p>



<p>　気づけば、季節は春の終わりを迎えていた。</p>



<p>　そんなある日――</p>



<p>　部活の先輩に呼び出された。</p>



<p>　放課後の体育館裏。誰もいない静かな場所で、<br>　「前から気になってたんだ」って、先輩はまっすぐ言った。</p>



<p>　何が起きてるのかわからなくて、ただ黙ってうなずいた。</p>



<p>　断ったわけでも、受け入れたわけでもなかった。<br>　でも“誰かに好かれた”という事実だけが、胸の中で大きくふくらんでいった。</p>



<p>　帰り道、スマホを握りしめて歩いていた。</p>



<p>　なんとなく、彼に伝えたくなって、メッセージを打っていた。</p>



<p>　『……さっき、先輩に告白された』</p>



<p>　少し間が空いてから、既読がついた。<br>　そして、返ってきたメッセージはたった一行。</p>



<p>　『……そっか。でも、できれば付き合ってほしくないかな』</p>



<p>　画面を見つめて、数秒間止まった。</p>



<p>　何それ。</p>



<p>　すぐには意味がつかめなかった。<br>　けど、彼が冗談みたいにそう言うのが、なんとなく目に浮かんだ。</p>



<p>　『……なんで？』</p>



<p>　『いや、なんとなくだけど』</p>



<p>　それだけの会話。<br>　でも、私はほんの少し、拍子抜けした。</p>



<p>　彼なら、いつものように「よかったね」って、<br>　優しく背中を押してくれると思っていたから。</p>



<p>　『応援してくれると思ったのに』</p>



<p>　打ったあと、すぐに後悔した。<br>　ちょっと意地みたいになっていた。</p>



<p>　返ってきた言葉は、それでも優しかった。</p>



<p>　『ごめん』</p>



<p>　たったそれだけ。<br>　でも、なんとなくそれ以上は続けられなかった。</p>



<p>　スマホを閉じて、息を吐く。</p>



<p>　浮かれていたんだと思う。<br>　“誰かに選ばれた”ことに、<br>　期待してしまった自分が恥ずかしかった。</p>



<p>　陽斗くんは、先輩の噂を知っていたのかもしれない。<br>　それを言わずに、ただ「付き合ってほしくない」と笑った。</p>



<p>　私だって、少しは聞いたことがあった。<br>　でも、“そんなはずない”って、思いたかった。</p>



<p>　彼の静かな優しさを、<br>　私はきっと――見えなくなっていた。</p>



<p>　その数日後、噂はあっさりと現実になった。</p>



<p>　告白してきた先輩が、他の子にも声をかけていたこと。<br>　わたしのことを「ちょっと押したらすぐいけそうだった」って話していたこと。</p>



<p>　中途半端な期待を持った自分が、<br>　何より一番、恥ずかしかった。</p>



<p>　誰にも言えなくて、ただ静かに、<br>　自分の中にその感情を押し込めた。</p>



<p>　あの日、彼の言葉を信じていたら。<br>　「付き合ってほしくない」なんて、そんな遠回しなやさしさじゃなくて、はっきり伝えてくれたら。</p>



<p>　……いや、ちがう。<br>　見ようとしなかったのは、わたしの方だった。</p>



<p>　自分に都合のいい方だけを見て、優しさは、面倒くさいものに思えて、気づかないふりをしていた。</p>



<p>　――放課後。</p>



<p>　昇降口の前、帰る準備をしていたとき。<br>　ふと目が合った彼が、ゆっくり近づいてきた。</p>



<p>　「……大丈夫？」</p>



<p>　たったそれだけのひと言。</p>



<p>　でも、その声を聞いた瞬間、<br>　涙が一気にあふれて、止まらなくなった。</p>



<p>　人がいる場所だったのに、そんなこと気にしていられなかった。<br>　恥ずかしくても、かっこ悪くても、もう全部どうでもよかった。</p>



<p>　彼は何も言わなかった。<br>　ただ、横にいてくれた。</p>



<p>　何も詰めないで、何も責めないで、<br>　そのままのわたしを、受け止めてくれた。</p>



<p>　ずっと、優しかった。<br>　ずっと、変わらなかった。</p>



<p>　わたしが勝手に浮かれて、見えなくなっていただけだった。</p>



<p>　その日、家に帰って布団の中で、<br>　わたしは小さく声に出してみた。</p>



<p>　「……陽斗くん」</p>



<p>　名前を呼んだだけなのに、<br>　胸の奥が、じわりとあたたかくなった。</p>



<p>　もっとずっと前から、私は彼のことが好きだった。</p>



<p>　あのとき、ちゃんと気づいていればよかった。<br>　ちゃんと伝えていれば、こんなに遠回りしなかったのに。</p>



<p>　――夕方の風が、制服の裾を軽く揺らした。</p>



<p>　校舎裏のフェンスの前。<br>　わたしたちは、並んで座っていた。</p>



<p>　「……ごめんね、あのとき」</p>



<p>　ぽつりと、わたしが言った。</p>



<p>　陽斗くんは、少しだけ驚いたように顔を向ける。<br>　でも何も言わず、視線を空に戻した。</p>



<p>　「ちゃんと、見えてなかった。自分のことでいっぱいいっぱいで……」</p>



<p>　こんなふうに素直に言えるのに、どれだけ時間がかかっただろう。</p>



<p>　彼は静かに言った。</p>



<p>　「俺は、全然大丈夫だよ」</p>



<p>　ああ、やっぱり。</p>



<p>　いつだって、自分のことよりわたしのことを先に気にしてくれる。</p>



<p>　だから、わたしは。</p>



<p>　「……ねえ」</p>



<p>　声が少しだけ震える。</p>



<p>　「わたしのこと、好きになってくれる？」</p>



<p>　言葉にした瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。</p>



<p>　ずうずうしいってわかってた。<br>　勝手すぎるってわかってた。</p>



<p>　でも、それでも――どうしても聞きたかった。</p>



<p>　陽斗くんは、しばらく何も言わなかった。</p>



<p>　やがて、ゆっくりと口を開いた。</p>



<p>　「……それは、無理だよ」</p>



<p>　――当然の言葉だった。</p>



<p>　あのとき、わたしは彼の優しさを遠ざけた。<br>　見なかったふりをして、向き合おうともしなかったくせに。</p>



<p>　ひどいのはわたしなのに、なんでこんなに苦しいんだろう。</p>



<p>　涙がこぼれた。</p>



<p>　頬を伝って、制服に落ちる。</p>



<p>　「……ごめん、変なこと言って」</p>



<p>　声がうわずって、自分でも何を言っているのか分からなかった。</p>



<p>　そのとき、彼がわたしの手を、そっと握った。</p>



<p>　「っ……」</p>



<p>　目を見開く。</p>



<p>　あたたかくて、ちゃんと力があった。</p>



<p>　「ごめん。ちょっと、いじわるだった」</p>



<p>　彼は、照れたように笑う。</p>



<p>　「でも――もう一度“好きじゃなかった頃”に戻るのは、無理だから」</p>



<p>　わけがわからなくて、なのに、<br>　胸の奥が、溶けていくようにあたたかくなった。</p>



<p>　「……なにそれ」</p>



<p>　笑ってるのか泣いてるのか、自分でもわからなかった。</p>



<p>　でも彼は、そんなわたしを見て、優しく笑った。</p>



<p>　――変わらないその笑顔が、<br>　わたしのすべてを、そっとほどいてくれた気がした。</p>



<p>　またここから始められる。</p>



<p>　今度は、ちゃんと隣で笑えるように――</p>



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		<title>『もう少しだけ』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 09 Mar 2025 21:49:06 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[夕暮れ]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛小説]]></category>
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					<description><![CDATA[放課後、夕陽が窓ガラスを朱色に染めていた。 教室の空気は緩やかで、友達の話し声や椅子を引く音が混じり合っていた。 自分はまだ帰る準備をする気になれず、机に肘をつき、なんとなく外を眺めていた。 赤く染まった校庭の向こうで、 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-3.jpeg" alt="" class="wp-image-2210" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-3.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-3-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>放課後、夕陽が窓ガラスを朱色に染めていた。</p>



<p>教室の空気は緩やかで、友達の話し声や椅子を引く音が混じり合っていた。</p>



<p>自分はまだ帰る準備をする気になれず、机に肘をつき、なんとなく外を眺めていた。</p>



<p>赤く染まった校庭の向こうで、部活の掛け声が響く。</p>



<p>そのとき、不意に声がした。</p>



<p>「……まだ帰らないの？」</p>



<p>声のほうを見ると、彼女だった。</p>



<p>普段はあまり話すことのない同級生。</p>



<p>けれど、席が近いせいか、なんとなく互いの存在を知っている、そんな距離感。</p>



<p>彼女の髪が夕陽を受けて、ほのかに光って見えた。</p>



<p>「もう少ししたら帰るよ」</p>



<p>そう答えると、彼女は少しだけ考えて——</p>



<p>「じゃあ、一緒に帰る？」そう言った。</p>



<p>一瞬、言葉が出なかった。</p>



<p>別に特別な意味はないのかもしれない。</p>



<p>たまたま帰る方向が同じなだけ。</p>



<p>けれど、こんなふうに彼女から誘われるのは初めてだった。</p>



<p>「……うん、いいよ」</p>



<p>そう答えると、彼女は微笑んで、先に鞄を肩にかけた。</p>



<p>その横顔は、いつもより少しだけ柔らかく見えた。<br>　<br>昇降口を抜けると、夕暮れの空気が肌に触れた。</p>



<p>まだ少しだけ暑さが残る季節だったけれど、夕方になると風が心地よかった。</p>



<p>二人で並んで歩く。</p>



<p>特に話すこともなく、互いの足音だけが響く。</p>



<p>こうして並んで歩くのは、きっと初めてだった。</p>



<p>それが妙にくすぐったくて、何か話さなきゃと思うのに、言葉が見つからない。</p>



<p>彼女はどんなことを考えているんだろう。</p>



<p>こうして誰かと帰ることなんて、彼女にとっては特別なことじゃないのかもしれない。</p>



<p>でも、自分にとっては——</p>



<p>「……いつも、こうやってのんびりしてるの？」</p>



<p>彼女がふいに口を開いた。</p>



<p>「え？」</p>



<p>「帰るの遅いよね。前にも、夕方まで残ってたの見たことある」</p>



<p>「あぁ……なんとなく、帰るタイミング逃すことが多くて」</p>



<p>「ふーん」</p>



<p>彼女はそれ以上何も言わずに歩く。</p>



<p>でも、どこか納得したような表情だった。</p>



<p>風が吹いた。</p>



<p>前を歩いていた小学生たちの自転車のベルの音が遠ざかっていく。</p>



<p>そのまま、二人の間にまた沈黙が落ちる。</p>



<p>だけど——嫌な感じはしなかった。</p>



<p>交差点の手前で、信号が赤に変わる。</p>



<p>二人は自然と足を止め、並んで立つ。</p>



<p>「……こうやって歩くの、なんか新鮮」</p>



<p>ぽつりと、彼女が言った。</p>



<p>「……そう？」</p>



<p>「うん。こういうの、あんまりないから」</p>



<p>「友達とは帰らないの？」</p>



<p>「帰るよ。でも、こうやって二人っていうのは、あんまりないかも」<br>　<br>信号が青に変わる。</p>



<p>歩き出すタイミングが少しずれて、自分が少し前に出る形になった。</p>



<p>そうしてまた、並ぶ。</p>



<p>校門を出てから、すれ違う人の数が増えてきた。</p>



<p>部活帰りの生徒や、自転車で駆け抜ける人たち。</p>



<p>その中で、自分たちは変わらず並んで歩いていた。</p>



<p>何を話せばいいのかわからなかった。</p>



<p>でも、不思議と気まずさはなかった。</p>



<p>むしろ、この静かさが心地よく思えた。</p>



<p>この時間が、もう少し続けばいいのに——</p>



<p>そんなことを、ふと考えた。</p>



<p>住宅街に入ると、彼女が「あ、ここで曲がる」と言った。</p>



<p>「あぁ」</p>



<p>「今日は、なんかありがと」</p>



<p>「え？」</p>



<p>「たぶん、一人だったらすぐ帰ってたから」<br>　<br>彼女はそう言って、小さく笑った。</p>



<p>「……うん」</p>



<p>何か、言葉を返したかったけれど、いい返事が思い浮かばなかった。</p>



<p>彼女が軽く手を上げて、家の方へ歩き出す。</p>



<p>その背中を見送ってから、もう一度歩き出した。</p>



<p>心なしか、夕暮れの空がいつもより広く感じた。<br>　<br>住宅街を抜けて、ひとりになった帰り道。</p>



<p>彼女と並んで歩いていた時間を思い出す。</p>



<p>特別な会話をしたわけじゃない。</p>



<p>でも、あの沈黙が心地よかったことだけは、はっきり覚えている。</p>



<p>ふと、ポケットに手を入れると、指先に触れたものがあった。</p>



<p>それを取り出してみる。</p>



<p>——飴玉。</p>



<p>彼女が、別れ際に何気なく差し出したもの。</p>



<p>「これ、いる？」と軽く聞かれて、なんとなく受け取った。</p>



<p>そのときは特に気にしていなかったけれど、今になって妙に気になった。</p>



<p>彼女は、あのとき何を考えていたんだろう。</p>



<p>なぜ、わざわざ自分にこれをくれたんだろう。</p>



<p>考えたところで答えは出ない。</p>



<p>でも、なんとなく——</p>



<p>また一緒に帰れるといいな。</p>



<p>そんなことを思った。<br>　</p>



<p>次の日。</p>



<p>いつもと同じ朝。</p>



<p>いつもと同じ教室。</p>



<p>けれど、なんとなく、彼女の存在が気になった。</p>



<p>意識していないつもりだった。</p>



<p>でも、視線が自然と彼女のほうへ向かってしまう。</p>



<p>気づかれたら恥ずかしいから、さりげなく。</p>



<p>それとなく。</p>



<p>「……」</p>



<p>彼女はいつも通り友達と話していた。</p>



<p>昨日と変わらない日常。</p>



<p>自分だけが、昨日を引きずっている気がした。</p>



<p>窓の外を見る。</p>



<p>晴れているのに、風は少し冷たい。</p>



<p>秋が近づいているんだろう。</p>



<p>昨日のことを、彼女は覚えているんだろうか。</p>



<p>それとも、何気ないこととして、もう忘れてしまったんだろうか。</p>



<p>そんなことを考えていると、不意に——</p>



<p>「おはよう」</p>



<p>彼女の声が聞こえた。</p>



<p>びくりと肩が跳ねる。</p>



<p>「……お、おはよう」</p>



<p>予想外のことに、ぎこちなくなった声。</p>



<p>彼女は特に気にすることもなく、にこりと微笑んで、自分の席へ戻った。</p>



<p>それだけのこと。</p>



<p>たったそれだけのことなのに、なぜか胸が騒いだ。</p>



<p>放課後。</p>



<p>昨日と同じ時間、同じ場所。</p>



<p>ふと、昇降口で靴を履き替えていると、彼女の姿が目に入った。</p>



<p>——昨日と同じように、一人だった。</p>



<p>「……」</p>



<p>少しだけ、迷う。</p>



<p>でも、自然と足が動いていた。</p>



<p>「今日も、一緒に帰る？」</p>



<p>気づけば、そう声をかけていた。</p>



<p>彼女は驚いたようにこちらを見て——</p>



<p>「……うん」</p>



<p>昨日と同じように、微笑んだ。</p>



<p>それだけで、今日の帰り道が少しだけ特別なものに思えた。</p>



<p>昨日より、ほんの少しだけ距離が縮まった気がした。</p>



<p>そして——</p>



<p>昨日より、もう少しだけ長く、この時間が続けばいいと思った。</p>



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		<title>『消しゴムの名前』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 09 Mar 2025 14:03:21 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
		<category><![CDATA[消しゴム]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
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					<description><![CDATA[授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 ガタガタと椅子を引く音、ざわめき、教室に広がる日常の音。机に肘をつきながら、なんとなく黒板を見つめる。 不意に名前を呼ばれ、顔を上げた。 先生が、手のひらに乗せた小さな消しゴムをか [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-1.jpeg" alt="" class="wp-image-2200" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-1.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-1-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。</p>



<p>ガタガタと椅子を引く音、ざわめき、教室に広がる日常の音。<br>机に肘をつきながら、なんとなく黒板を見つめる。</p>



<p>不意に名前を呼ばれ、顔を上げた。</p>



<p>先生が、手のひらに乗せた小さな消しゴムをかざしている。</p>



<p>「落とし物だ。名前が書いてあるぞ」</p>



<p>「ほら」と消しゴムを渡されるが、</p>



<p>（え？）</p>



<p>一瞬、理解が追いつかなかった。<br>けれど、教室のざわめきがピタリと止まり、数秒後には「おおー！」と興味をそそられたような反応が返ってくる。</p>



<p>「お前、名前書く派なの？」</p>



<p>「いやいや、違う。俺のじゃない」</p>



<p>慌てて否定した。</p>



<p>でも、確かにそこには自分の名前が書かれている。</p>



<p>手のひらサイズの、どこにでもある普通の消しゴム。<br>でも、文字の筆跡は見覚えのないものだった。</p>



<p>「じゃあ誰のだ？」</p>



<p>先生がもう一度教室を見渡す。</p>



<p>その瞬間、視線の端に彼女の姿が映った。</p>



<p>端の席。<br>普段あまり話すことのない、でも、いつもなんとなく目で追ってしまうあの子。</p>



<p>彼女が、一瞬だけ息をのむような仕草をした。</p>



<p>そして、小さく俯く。</p>



<p>「……」</p>



<p>偶然かもしれない。<br>でも、もしかして——</p>



<p>「とりあえず、持っておけ。持ち主がいたら返してやればいい」</p>



<p>先生はそう言って、消しゴムをポンと机に置いた。</p>



<p>周りから「お前のだろー！」「モテ期か？」なんて茶化されながら、無言でそれを手に取る。</p>



<p>小さな、何の変哲もない消しゴム。<br>だけど、それが今、妙に重たく感じられた。</p>



<p>放課後。</p>



<p>いつもより少し遅く教室を出た。<br>荷物をまとめながら、ポケットに入ったままの消しゴムを何度か指でなぞる。</p>



<p>——どうしよう。</p>



<p>返すべきなのか、それとも、このまま持っているべきなのか。</p>



<p>（……いや、何を考えてるんだ）</p>



<p>結局、自分の名前が書かれていた理由もわからないままだ。<br>それだけで何かを期待するのは、単なる勘違いかもしれない。</p>



<p>それでも——</p>



<p>「……あの」</p>



<p>廊下を歩いていると、不意に背後から小さな声がした。</p>



<p>振り向くと、そこに彼女がいた。</p>



<p>「……さっきの消しゴム、私の、なの」</p>



<p>その声は、どこか申し訳なさそうで、それでいて少しだけ緊張しているようにも聞こえた。</p>



<p>「え？」</p>



<p>思わず、聞き返してしまう。</p>



<p>「さっきの、落としちゃって……」</p>



<p>「……」</p>



<p>言葉の続きを待つ。<br>けれど、彼女は何かを言いかけて、それ以上は口を開かなかった。</p>



<p>ただ、じっとこちらを見ている。</p>



<p>「……そっか」</p>



<p>ポケットの中の消しゴムを取り出す。</p>



<p>「ほら」</p>



<p>そっと手のひらに乗せると、彼女は少し戸惑ったように、それを受け取った。</p>



<p>「……ありがとう」</p>



<p>消しゴムを持つ指先が、かすかに震えていた。</p>



<p>「……でもさ」</p>



<p>自分でも、なぜその言葉を口にしたのかはわからなかった。</p>



<p>「なんで俺の名前、書いてたの？」</p>



<p>彼女の表情が、一瞬ぴたりと固まる。</p>



<p>そして——</p>



<p>「それは……」</p>



<p>何かを言おうとした、けれど。</p>



<p>「……なんでもない」</p>



<p>小さく息を吐いて、ふっと笑った。</p>



<p>「気にしないで」</p>



<p>そう言って、彼女は軽く頭を下げて、足早に去っていった。</p>



<p>その後ろ姿を、ぼんやりと見送った。</p>



<p>結局、理由は聞けなかった。<br>でも、それでもいい気がした。</p>



<p>名前が書かれた理由は——</p>



<p>彼女が去ったあと、しばらくの間、その場を動けなかった。</p>



<p>消しゴムをそっと握りしめた彼女の指先。<br>「気にしないで」と笑ったあの表情。</p>



<p>あれが本当に、ただの「なんでもない」ことだったのだろうか。</p>



<p>——気になる。</p>



<p>でも、それ以上に、これ以上何かを聞いたらいけないような気もした。</p>



<p>彼女が言葉を選んで、そう言ったのだから。</p>



<p>……これで終わり？</p>



<p>そう思おうとしたのに、なぜか心の奥に、小さな引っかかりが残る。</p>



<p>次の日。</p>



<p>教室に入ると、何となく彼女の方を見てしまった。</p>



<p>席は少し離れている。<br>普段なら気にすることもないのに、今日は無意識に視線が向く。</p>



<p>彼女は、いつもと変わらない様子だった。</p>



<p>友達と話しながら笑い、時々頷いたり、窓の外を眺めたり。<br>それは、昨日までと同じ彼女だった。</p>



<p>でも、たった一つだけ違ったのは——</p>



<p>机の上に、昨日の消しゴムが置かれていたこと。</p>



<p>さりげなく視線を戻す。<br>気にしすぎるのも変だ。</p>



<p>でも、どうしてだろう。</p>



<p>消しゴムの向きが、妙に気になった。</p>



<p>普通、机に置くなら、何気なく転がしておくだろう。</p>



<p>けれど、その消しゴムはまっすぐに置かれていた。<br>まるで、それを持ち主に見てもらうことを期待しているかのように。</p>



<p>その白い表面に、昨日と同じように——<br>自分の名前が書かれている。</p>



<p>昼休み。</p>



<p>どうしようもなく気になって、結局彼女の近くを通ってみた。</p>



<p>すると、ふとした瞬間、彼女と目が合った。</p>



<p>彼女は一瞬、驚いたように目を瞬かせ——</p>



<p>それから、ゆっくりと笑った。</p>



<p>それは、昨日よりもほんの少しだけ、柔らかい笑顔だった。</p>



<p>「……ねぇ」</p>



<p>彼女が声をかけてきたのは、その帰り道だった。</p>



<p>「昨日のことだけど……」</p>



<p>立ち止まる。</p>



<p>彼女も足を止めて、少し考えるように空を見上げた。</p>



<p>「やっぱり、言っておこうかな」</p>



<p>そう言って、ポケットから昨日の消しゴムを取り出した。</p>



<p>「これね、別に落としたんじゃなくて……本当は、大事に持ってたの」</p>



<p>消しゴムをそっと両手で包み込む。</p>



<p>「でも、名前、見られちゃったよね」</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>「だから、もう隠すのは無理かなって思って」</p>



<p>彼女は、少しだけ困ったように笑った。</p>



<p>「恋のおまじない、知ってる？」</p>



<p>「……ん？」</p>



<p>「好きな人の名前を消しゴムに書いて、それを最後まで使い切ると……願いが叶うってやつ」</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>聞いたことはあった。<br>でも、まさか、そんな話が今ここで出るとは思わなかった。</p>



<p>「それで……」</p>



<p>彼女は、少しだけ目を伏せる。</p>



<p>「これ、私が書いたんだ」</p>



<p>自分の名前が書かれた消しゴムを、そっと差し出した。</p>



<p>「……」</p>



<p>何かを言わなきゃいけない。</p>



<p>そう思うのに、言葉が出てこなかった。</p>



<p>「だから、昨日はびっくりして、つい誤魔化しちゃったけど……でも、もういいかなって思って」</p>



<p>「……」</p>



<p>彼女が、ふっと笑う。</p>



<p>「だって、もうバレちゃったし」</p>



<p>そう言って、消しゴムを指先でくるりと回した。</p>



<p>「……ごめんね、変なことして」</p>



<p>「……」</p>



<p>言葉を探す。</p>



<p>でも、何を言えばいいのか、わからなかった。</p>



<p>ただ、彼女の手の中にある消しゴムを見つめることしかできなかった。</p>



<p>「もし、迷惑じゃなかったら……」</p>



<p>一瞬、躊躇うようにして。</p>



<p>でも、彼女はそれでも、勇気を出したように言った。</p>



<p>「このまま、持っていてもいい？」</p>



<p>「……」</p>



<p>答えは、決まっていた。</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>自然と口からこぼれた言葉に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。</p>



<p>「よかった」</p>



<p>そう言って、彼女は消しゴムをそっとポケットにしまう。</p>



<p>そして、いつも通りの笑顔で「じゃあ、また明日」と言って、軽く手を振った。</p>



<p>「……あぁ」</p>



<p>彼女の背中を見送る。</p>



<p>そのポケットの中に、まだ名前が書かれたままの消しゴムがあることを思いながら。</p>



<p>「……」</p>



<p>なんとなく、自分の手がポケットの中の鍵を探した。</p>



<p>きゅっと握りしめる。</p>



<p>それは、いつもと変わらない手の感触だったはずなのに、なぜか今日だけは少し違って感じた。</p>



<p>それが何なのかは、まだわからない。</p>



<p>ただ、彼女がポケットにしまった小さな消しゴムのように——</p>



<p>その気持ちも、そっと胸の奥にしまっておこうと思った。</p>



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		<title>『小さな落とし物』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sat, 08 Mar 2025 12:36:50 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
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					<description><![CDATA[小さな落とし物 放課後の教室は、昼間の賑やかさを忘れたように静かだった。 机と椅子が無造作に並び、窓の外から吹き込む風がカーテンをゆるく揺らしている。掃除当番を終えて荷物をまとめたあと、ふと廊下に目をやる。 ——彼女がい [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5.jpeg" alt="" class="wp-image-2132" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/5c9a5186521cc50fa1ace400f51560b5-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>小さな落とし物</p>



<p>放課後の教室は、昼間の賑やかさを忘れたように静かだった。</p>



<p>机と椅子が無造作に並び、窓の外から吹き込む風がカーテンをゆるく揺らしている。<br>掃除当番を終えて荷物をまとめたあと、ふと廊下に目をやる。</p>



<p>——彼女がいる。</p>



<p>数人の友達と話している姿が、半開きのドアの隙間から見えた。</p>



<p>彼女は、クラスでも目立つ存在だった。</p>



<p>勉強ができるとか、運動が得意とか、そういうわけじゃない。<br>けれど、いつも誰かの中心にいて、自然と視線を集めるような子だった。</p>



<p>特別、意識していたわけじゃない。<br>話すこともほとんどないし、隣の席になったこともない。</p>



<p>なのに、気づけば目で追っている自分がいる。<br>彼女が笑うと、まるで周りの空気が少しだけ柔らかくなるようだった。</p>



<p>教室を出て廊下を歩く。<br>彼女のすぐ横を通り過ぎる瞬間、ふと足元に何かが落ちているのが見えた。</p>



<p>小さな、黒いヘアゴム。</p>



<p>彼女のものかどうかは分からなかった。<br>けれど、さっきまで髪を結んでいたのに、今はほどけているのが目に入る。</p>



<p>「あ！」</p>



<p>気づいたのか、彼女が髪をかき上げる仕草をした。<br>その指先が、いつもより少し寂しげに見えた。</p>



<p>拾って、声をかけようか——。</p>



<p>一瞬、迷う。<br>目の前には、彼女の友達がいる。<br>自分が話しかけたら、変に思われるかもしれない。</p>



<p>結局、その場では何もできず、ヘアゴムだけをそっとポケットにしまった。</p>



<p>帰り道の途中、ポケットの中のヘアゴムを指先で転がす。<br>どうして拾ったんだろう。<br>渡せばよかったのに、気づかないふりをしてしまった。</p>



<p>もし、明日も彼女が髪を結んでいなかったら、やっぱり必要だったのかもしれない。<br>でも、落としたことすら気づいていないかもしれない。</p>



<p>どうすればいいんだろう。</p>



<p>ただのヘアゴム。<br>それなのに、ポケットにあるだけで、妙に気にかかる。</p>



<p>次の日。</p>



<p>彼女は、昨日と変わらず髪を結んでいた。<br>昨日と同じように、無造作にまとめられたポニーテール。<br>新しいヘアゴムを使ったのか、それとも誰かから借りたのか。</p>



<p>もし、このまま渡さなかったら、別に困ることはないんだろうな。<br>そう思うと、余計に渡しそびれてしまう。</p>



<p>授業の合間、ちらりと彼女の方を見た。<br>窓際の席で、友達と小さな声で話している。<br>時折、窓の外に目を向けては、頬杖をつく。</p>



<p>あのヘアゴムは、本当に彼女のものだったんだろうか。<br>確信が持てないまま、またポケットの中で指先がそれをなぞる。</p>



<p>放課後、彼女が教室を出るタイミングを見計らう。<br>何かのついでのように、さりげなく渡せればいい。</p>



<p>けれど、そんな都合のいいタイミングはなかなか訪れなかった。</p>



<p>自分が帰るころには、彼女の姿はもうどこにもなかった。</p>



<p>帰宅して、机の上にヘアゴムを置く。<br>まるで自分のものみたいに、そこにあるのが変な気分だった。</p>



<p>渡せないまま、二日が過ぎた。</p>



<p>たったそれだけのことなのに、気持ちがもやもやと落ち着かない。<br>手元にある限り、ずっと気にしてしまいそうだった。</p>



<p>——明日こそは、渡そう。</p>



<p>そんなことを考えながら、眠りについた。</p>



<p>次の日。</p>



<p>ヘアゴムをポケットに入れて、何度も指先で確かめる。<br>今日こそは渡そう。そう決めたはずなのに、思っていたより簡単じゃない。</p>



<p>授業中、机の上に頬杖をつきながら彼女の方をちらりと見る。<br>何かを考えているように、ぼんやりと窓の外を眺めていた。</p>



<p>窓からの光が髪に映えて、ゆるく結ばれたポニーテールがそよぐ。<br>新しいヘアゴムを使っているのか、昨日と変わらない後ろ姿。</p>



<p>（……もう、渡さなくてもいいのかも）</p>



<p>そんな考えがよぎる。</p>



<p>彼女が困っている様子はない。<br>落としたことすら気にしていないのかもしれない。</p>



<p>だったら、わざわざ渡す必要なんて——。</p>



<p>放課後、なんとなく教室に残る。</p>



<p>彼女は友達と談笑しながら、ゆっくりと荷物をまとめていた。<br>特に急ぐわけでもなく、帰るタイミングを見計らっているようにも見えた。</p>



<p>本当なら、その間に声をかければよかったのかもしれない。<br>けれど、彼女の友達がすぐ隣にいるだけで、気軽に話しかけることはできなかった。</p>



<p>「じゃあ、また明日ね！」</p>



<p>彼女は友達に手を振り、教室を出て行った。</p>



<p>その後ろ姿を目で追う。</p>



<p>気づけば、また渡しそびれていた。</p>



<p>帰り道。</p>



<p>もう空は薄暗くなり始めていた。<br>秋の夕暮れは短く、気温も少し肌寒くなっている。</p>



<p>結局、今日も渡せなかったな——。<br>そう思いながら歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿があった。</p>



<p>彼女だった。</p>



<p>一人で歩いている。<br>いつも友達と一緒なのに、珍しい。</p>



<p>渡すなら、今かもしれない。</p>



<p>歩幅を少し早める。</p>



<p>「……」</p>



<p>声をかけるタイミングを探すが、うまく言葉が出てこない。</p>



<p>ポケットの中で、ヘアゴムをそっと撫でる。<br>たったこれだけのことで、どうしてこんなに迷うんだろう。</p>



<p>ふと、彼女が立ち止まった。</p>



<p>何かを探すように、足元を見つめる。</p>



<p>もしかして——。</p>



<p>小さく息を吸って、思い切って声をかけた。</p>



<p>「……これ、落とした？」</p>



<p>そう言って、ポケットからヘアゴムを取り出す。</p>



<p>彼女がこちらを向いた。</p>



<p>一瞬、驚いたような表情をした後、ヘアゴムを見て目を瞬かせる。</p>



<p>「あ……」</p>



<p>手を伸ばして、そっとそれを受け取った。</p>



<p>「ありがと。……どこで拾ったの？」</p>



<p>「教室の前で。多分、落としたんじゃないかと思って……」</p>



<p>「そっか……気づかなかった」</p>



<p>彼女はヘアゴムを指で弄びながら、小さく笑った。</p>



<p>「でも、なんで持ってたの？」</p>



<p>鋭い質問だった。</p>



<p>「いや……その、すぐ渡せばよかったんだけど……」</p>



<p>言葉を濁すと、彼女はくすっと笑う。</p>



<p>「もしかして、ずっと持ってた？」</p>



<p>からかうような口調。</p>



<p>「……まぁ、そんな感じ」</p>



<p>正直に答えると、彼女は少しだけ驚いた顔をした。</p>



<p>「そっか」</p>



<p>それだけ言って、視線を落とす。</p>



<p>その後、しばらく沈黙が続いた。</p>



<p>何か話さなきゃと思いながらも、何を言えばいいのかわからない。</p>



<p>そうしているうちに、彼女がゆっくりと歩き出した。</p>



<p>「……じゃあね」</p>



<p>そう言って、小さく手を振る。</p>



<p>いつもより少しだけ、ゆっくりと。</p>



<p>「……ああ」</p>



<p>そう返して、彼女の背中を見送った。</p>



<p>ポケットの中には、もうヘアゴムはない。</p>



<p>ただ、それだけのことなのに。</p>



<p>どこか、胸の奥がふわりと揺れる気がした。</p>



<p>それが何なのかは、まだよくわからない。</p>



<p>次の日。</p>



<p>授業中、ぼんやりと窓の外を眺めていた。</p>



<p>昨日のことが頭から離れない。</p>



<p>手を振っていた彼女の後ろ姿、ほんの少し驚いたような表情。</p>



<p>「もしかして、ずっと持ってた？」</p>



<p>その言葉を思い出すたび、胸の奥が妙にざわつく。</p>



<p>渡すだけのつもりだったのに。</p>



<p>どうして、こんなに気になるんだろう。</p>



<p>昼休み。</p>



<p>いつものように、友達と他愛のない会話をしていた。</p>



<p>ふと、教室の入り口の方で、彼女の姿が見えた。</p>



<p>「おーい！」</p>



<p>隣の席の子が、彼女に手を振る。</p>



<p>彼女は小さく微笑んで、軽く手を振り返した。</p>



<p>その横顔を、つい目で追ってしまう。</p>



<p>そんな自分に気づき、少しだけ息をつく。</p>



<p>（……なんなんだ、これ）</p>



<p>ただのヘアゴムひとつ。</p>



<p>それを渡しただけなのに、こんなにも意識してしまうのが不思議だった。</p>



<p>放課後。</p>



<p>帰り支度をしながら、何気なく教室の外を覗いた。</p>



<p>彼女がいた。</p>



<p>廊下で友達と談笑しながら、髪を結び直している。</p>



<p>手に持っているのは——昨日、渡したヘアゴムだった。</p>



<p>思わず、心臓が跳ねる。</p>



<p>（使ってる……？）</p>



<p>自分でも驚くほど、小さなことで嬉しくなった。</p>



<p>でも、すぐに気づく。</p>



<p>彼女が結んだ髪を、友達が軽く引っ張っていた。</p>



<p>「それ、昨日のやつ？」</p>



<p>「うん、落としたやつ。拾ってくれたみたいで」</p>



<p>「へぇ〜、よかったね」</p>



<p>「うん」</p>



<p>彼女は少しだけ笑った。</p>



<p>どこか、昨日より柔らかい表情に見えた。</p>



<p>帰り道。</p>



<p>昨日と同じ時間、同じ道。</p>



<p>だけど、今日は彼女の姿はなかった。</p>



<p>代わりに、昨日のことを思い出していた。</p>



<p>「……ありがと」</p>



<p>それだけの言葉だったのに。</p>



<p>こんなにも記憶に残るなんて。</p>



<p>自分でも、思っていたより単純なのかもしれない。</p>



<p>だけど——。</p>



<p>それでいい、そう思った。</p>



<p>次の日も、また次の日も。</p>



<p>彼女の髪には、昨日渡したヘアゴムがあった。</p>



<p>それを目にするたび、小さく心が動く。</p>



<p>特別な言葉を交わしたわけでもない。</p>



<p>それなのに、不思議と忘れられない。</p>



<p>彼女の後ろ姿を、目で追いながら思う。</p>



<p>（……たぶん、これがはじまりなんだろうな）</p>



<p>名前を呼んだこともない。</p>



<p>二人で話したことなんて、ほとんどない。</p>



<p>それでも、彼女を目で追う時間が、少しずつ増えていく。</p>



<p>そんな自分に気づいてしまった。</p>



<p>だけど、それを認めるのは、もう少し先でいい気がした。</p>



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		<item>
		<title>『窓越しの君』</title>
		<link>https://novel-room.online/you-through-the-window/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 06 Mar 2025 17:43:21 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[記憶のかけら]]></category>
		<category><![CDATA[放課後]]></category>
		<category><![CDATA[淡い恋]]></category>
		<category><![CDATA[窓越し]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
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					<description><![CDATA[放課後、何となく窓の外を眺めるのが習慣になっていた。 理由なんてない。 授業の終わり、机に置いた手を少し伸ばして、ぼんやりと外を見る。 グラウンドでは部活の掛け声が響き、昇降口の前には帰る準備をする生徒たちがいる。 その [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/874c4df3ce10145522987857a62a4136.jpeg" alt="" class="wp-image-2122" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/874c4df3ce10145522987857a62a4136.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/874c4df3ce10145522987857a62a4136-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>放課後、何となく窓の外を眺めるのが習慣になっていた。</p>



<p>理由なんてない。</p>



<p>授業の終わり、机に置いた手を少し伸ばして、ぼんやりと外を見る。</p>



<p>グラウンドでは部活の掛け声が響き、昇降口の前には帰る準備をする生徒たちがいる。</p>



<p>その中に、彼女の姿を見つけた。</p>



<p>特に気にしていたわけじゃない。</p>



<p>ただ、目についた。</p>



<p>いつの間にか、視線が追っていた。</p>



<p>成績もいいし、運動もできる。<br>何より、可愛い。</p>



<p>彼女はいつも誰かと一緒にいて、笑っている。</p>



<p>ただ、それだけのこと。</p>



<p>なのに、いつの間にか目で追ってしまう。</p>



<p>探してしまう自分に、少しだけ戸惑う。</p>



<p>＊</p>



<p>ある日、いつものように窓の外を見ていた。</p>



<p>昇降口の前、彼女が友達と並んで歩いている。</p>



<p>そして、不意に足を止めた。</p>



<p>誰かを探すように、視線を上げる。</p>



<p>──え？</p>



<p>次の瞬間、彼女は小さく手を振った。</p>



<p>窓越しに、まっすぐこちらへ向けて。</p>



<p>風が吹いて、彼女の髪が揺れる。</p>



<p>友達が驚いたように隣を見ている。</p>



<p>「え、誰に？」</p>



<p>聞こえなくても、口の動きでわかった。</p>



<p>彼女は軽く笑って、そのまま歩き出した。</p>



<p>何もなかったように。</p>



<p>でも、こっちはそうはいかなかった。</p>



<p>胸の奥が、ざわついた。</p>



<p>──今のは、偶然か？</p>



<p>いや、違う。</p>



<p>彼女の手は、確かにこっちに向けられていた。</p>



<p>思い違いじゃない。</p>



<p>そう思うほどに、心臓の音が大きくなる。</p>



<p>放課後、なんとなく窓の外を眺める。</p>



<p>それは、ただの習慣だったはずなのに。</p>



<p>たった一度、手を振られただけで、意味を持ち始めた。</p>



<p>あの日以来、放課後の窓際は、ただの習慣ではなくなった。</p>



<p>授業が終わり、机に置いた手を少し伸ばして、外を見る。</p>



<p>グラウンドでは部活の掛け声が響き、昇降口の前には帰る準備をする生徒たちがいる。</p>



<p>彼女の姿を探す。</p>



<p>自分でも驚くほど、すぐに見つけられた。</p>



<p>たぶん、前からそうだったんだろう。</p>



<p>無意識のうちに、視線で追っていた。</p>



<p>その日も、彼女は友達と歩いていた。</p>



<p>笑いながら話している。</p>



<p>眩しいくらいに、楽しそうだった。</p>



<p>──だけど、一瞬だけ。</p>



<p>ほんの一瞬、彼女の視線が上がる。</p>



<p>そして、また。</p>



<p>小さく、手を振った。</p>



<p>昨日と同じように。</p>



<p>「……っ」</p>



<p>鼓動が早くなるのを感じた。</p>



<p>きっと、思い違いじゃない。</p>



<p>彼女は、窓の向こうにいる自分を見つけている。</p>



<p>だけど、どうして？</p>



<p>なぜ、手を振るんだろう。</p>



<p>友達は、やっぱり不思議そうに彼女を見ている。</p>



<p>「誰に？」</p>



<p>彼女は、それに答えず、小さく笑って歩き出した。</p>



<p>＊</p>



<p>意識するようになってから、些細なことが気になるようになった。</p>



<p>彼女と同じクラスの友達が、楽しそうに話しているのを見た。</p>



<p>彼女の名前が出ると、つい耳が傾く。</p>



<p>些細な情報に、いちいち反応する自分がいる。</p>



<p>それだけじゃない。</p>



<p>廊下でたまたますれ違うとき、どうしたらいいのかわからなくなる。</p>



<p>目が合っても、すぐに逸らしてしまう。</p>



<p>向こうは何も気にしていないのかもしれない。</p>



<p>でも、もし。</p>



<p>もし、彼女も意識していたら。</p>



<p>──そんなことを考えてしまう。</p>



<p>そういう目で見ると、彼女はやっぱり特別だった。</p>



<p>クラスの誰とでも仲が良くて、話しているときは楽しそうで。</p>



<p>それでいて、ふとしたとき、どこか遠くを見ていることがある。</p>



<p>何を考えているんだろう。</p>



<p>何を見ているんだろう。</p>



<p>＊</p>



<p>ある日、窓際に座ると、雨の匂いがした。</p>



<p>天気は曇り。</p>



<p>もうすぐ降り出しそうな、湿った空気。</p>



<p>昇降口の前には、傘を持っている生徒がちらほら。</p>



<p>彼女も、その中にいた。</p>



<p>手には折りたたみ傘。</p>



<p>友達と話しながら、それを広げる。</p>



<p>そして、また。</p>



<p>一瞬だけ、こちらを見上げた。</p>



<p>窓越しに、静かに見つめ合う。</p>



<p>手は振らなかった。</p>



<p>でも、それだけで十分だった。</p>



<p>雨が降り出す。</p>



<p>音もなく、静かに。</p>



<p>彼女はゆっくりと傘を開いた。</p>



<p>友達と並んで歩き出す。</p>



<p>自分は、その背中をただ見つめていた。</p>



<p>＊</p>



<p>「誰かを、好きになるって、どんな感じなんだろう」</p>



<p>そう思ったのは、たぶんこのときが初めてだった。</p>



<p>この気持ちは、何かの名前をつけられるものなのか。</p>



<p>それとも、ただの偶然が積み重なっただけなのか。</p>



<p>──もし、窓越しの手が、最初からなかったら。</p>



<p>自分は、彼女を意識することはなかったのかもしれない。</p>



<p>だけど。</p>



<p>たった一度、振られた手が。</p>



<p>視線が。</p>



<p>心のどこかに、静かに残ってしまった。</p>



<p>＊</p>



<p>それから何度か、窓越しに視線が合うことはあった。</p>



<p>彼女は何も言わず、ただ、少しだけ笑ったり、視線をそらしたりした。</p>



<p>自分も、何もできなかった。</p>



<p>言葉にしないまま、過ぎていく時間。</p>



<p>季節が変わる頃、ふと気づくと、あの時間はもうなかった。</p>



<p>彼女を目で追うことも、窓越しに視線を交わすことも、もうなくなっていた。</p>



<p>何もなかったように。</p>



<p>まるで最初から、そんな時間が存在しなかったみたいに。</p>



<p>だけど。</p>



<p>今でも、ふとした瞬間に思い出す。</p>



<p>放課後、窓の向こうにいた彼女の姿を。</p>



<p>何も言わずに、ただ小さく手を振った、その瞬間を。</p>



<p>きっと、忘れられないままなんだと思う。</p>



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		<item>
		<title>『お似合いのふたり』</title>
		<link>https://novel-room.online/a-perfect-couple/</link>
					<comments>https://novel-room.online/a-perfect-couple/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 02 Mar 2025 13:34:12 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[オーバーステップ！]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[ハンドボール]]></category>
		<category><![CDATA[儚いひととき]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
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					<description><![CDATA[　体育館の空気には、まだ今日の練習の熱が残っていた。　ハンドボール部のメンバーたちは、それぞれ荷物をまとめたり、ストレッチをしたり、談笑しながら帰り支度をしている。 　そんな中、俺――悠斗は、いつものようにバッグを肩にか [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/aad333ac8ccf42ae52ca042e3916924c.jpeg" alt="" class="wp-image-2120" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/aad333ac8ccf42ae52ca042e3916924c.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/aad333ac8ccf42ae52ca042e3916924c-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>　体育館の空気には、まだ今日の練習の熱が残っていた。<br>　ハンドボール部のメンバーたちは、それぞれ荷物をまとめたり、ストレッチをしたり、談笑しながら帰り支度をしている。</p>



<p>　そんな中、俺――悠斗は、いつものようにバッグを肩にかけながら出口へと向かっていた。</p>



<p>「悠斗、一緒に帰ろう」</p>



<p>　振り返ると、菜月がいつも通りの自然な様子で立っていた。<br>　これも、いつものこと。</p>



<p>「ああ、いいぞ」</p>



<p>　当たり前のようにそう返した瞬間――<br>　<br>　「あの二人って、いつも一緒に帰ってない？」</p>



<p>　近くで話していた部員の声が耳に入った。<br>　<br>　「もしかして、付き合ってる？」</p>



<p>　――ゴホッ。</p>



<p>　不意に咳き込んだ俺は、思わず菜月の顔を見た。<br>　彼女は普段通りの表情をしているけど、ほんの一瞬、ピクリと肩が動いたのを見逃さなかった。</p>



<p>　部員たちは悪気なくヒソヒソと話し続けている。</p>



<p>　「まぁ、お似合いだしな」<br>　「そろそろ正式にそういう関係になったりして」</p>



<p>「……っ」</p>



<p>　なんか、すげぇ気まずい。<br>　菜月と一緒に帰るのは別に普通のことなのに、そう言われると変に意識してしまう。<br>　いやいや、俺が意識するのもおかしいだろ。</p>



<p>「な、なぁ圭吾」</p>



<p>　唐突に、俺は近くで着替えていた圭吾に助けを求めた。<br>　<br>「お前も帰るだろ？ 一緒に帰ろうぜ」</p>



<p>「え？」</p>



<p>　圭吾は驚いたように俺を見たあと、ニヤッと笑う。</p>



<p>「いや、俺、今日は陽菜と二人っきりで仲良く帰るから無理だよ」</p>



<p>「は！？ いやいや、何言ってんの！？」</p>



<p>　振り返ると、陽菜が赤くなって抗議していた。</p>



<p>「仲良くじゃない！！ 圭吾が勝手についてくるだけ！」</p>



<p>「ひどくね？ 俺、ちゃんとお前の荷物持ってやるのに」</p>



<p>「それは応援用のグッズとか持ち帰るのが大変だからでしょ！？」</p>



<p>　陽菜の反論に、俺は「え？」と首を傾げた。</p>



<p>「応援グッズ？」</p>



<p>「そうそう」</p>



<p>　圭吾はふざけた口調で陽菜のバッグをポンと叩いた。</p>



<p>「試合前だから、陽菜は応援の準備してんの。で、それを家まで持ち帰るのが大変だから、俺が手伝ってあげてんの」</p>



<p>「そ、そういうこと」</p>



<p>　陽菜はむすっとしながらバッグを抱え直す。<br>　ふと気づけば、菜月がその様子をじっと見つめていた。</p>



<p>「なら、私も手伝うよ」</p>



<p>　そう言って菜月が陽菜のほうへ歩み寄ると、陽菜は「えっ」と少し戸惑った顔をした。</p>



<p>「え、いいよ！？ そんな、わざわざ……」</p>



<p>「いいって。試合前はみんなで頑張るんだから、マネージャーだけに負担かけるのも変でしょ」</p>



<p>　菜月がそう言うと、俺も思わず「まぁ、俺も手伝うわ」と言葉を継いでいた。</p>



<p>「え、悠斗まで？」</p>



<p>「圭吾に全部任せると、あとで『俺が全部やった』って大げさに言いふらされそうだし」</p>



<p>「おいおい、信用ねぇな！」</p>



<p>　圭吾が苦笑いする中、俺たちは自然な流れで四人で帰ることになった。</p>



<p>　こうして、俺たちは学校を出た。<br>　もともと、俺と菜月は一緒に帰ることが多いし、陽菜と圭吾も割とそういうことがある。<br>　だけど、こうして四人で一緒に帰るのは、なんとなく新鮮だった。</p>



<p>　駅へ向かう道の途中、圭吾が不意に口を開く。</p>



<p>「なぁ、陽菜。俺って、マネージャーからの評価どんな感じ？」</p>



<p>「は？」</p>



<p>「こうして荷物持ったりしてるんだから、そろそろ**『圭吾くん、優しい』とか言われる頃じゃね？」」</p>



<p>「いや、普通に感謝はしてるよ」</p>



<p>　陽菜は淡々と答える。</p>



<p>「けど、それをいちいち言葉にしないとダメ？」</p>



<p>「ちょっと待て、それだと俺が『感謝しろ』って言わせてるみたいじゃん！」</p>



<p>「違うの？」</p>



<p>「違うわ！」</p>



<p>　圭吾の必死な訴えに、俺と菜月は思わず笑った。</p>



<p>　そんなふざけたやり取りをしながら、ふと菜月が何気なく陽菜の様子を盗み見る。</p>



<p>（……なんか、陽菜って、前より圭吾に対して優しくなった？）</p>



<p>　これまではもっと遠慮なくツッコんだり、はっきりした態度をとっていたような気がする。<br>　それが、今日はどこか柔らかいというか……。</p>



<p>（気のせい……かな？）</p>



<p>　菜月は何も言わず、ただその様子を眺めながら歩き続けた。</p>



<p>　こうして、四人での帰り道が続いた。<br>　圭吾がふざけ、陽菜がツッコミ、菜月がそれを見て小さく笑う。<br>　俺は――</p>



<p>（さっきの言葉、まだ引っかかってるな）</p>



<p>　部活のやつらの、「付き合ってるの？」という言葉。</p>



<p>　今まで、そんなこと考えたこともなかったのに。</p>



<p>「悠斗？」</p>



<p>　ふと菜月の声がして、俺はハッとして彼女を見る。</p>



<p>「え、ああ、なんだ？」</p>



<p>「さっきから、ぼーっとしてる」</p>



<p>「え？ いや、別に」</p>



<p>「そ？」</p>



<p>　菜月は特に気にした様子もなく、また歩き出す。</p>



<p>　その横顔を見ながら、俺はなんとなく落ち着かない気持ちになった。</p>



<p>　――いつも通りの帰り道のはずなのに。<br>　なんだか、少しだけ違う気がした。</p>



<p>　四人での帰り道は、思った以上に賑やかだった。</p>



<p>　圭吾が冗談を飛ばし、陽菜がツッコむ。<br>　菜月がクスクスと笑い、俺はなんとなくその様子を見ている。<br>　<br>　まるで、これがいつもの日常のように。<br>　だけど、俺の心の中では、先ほどの部員たちの言葉がまだ引っかかっていた。</p>



<p>　――「あの二人って、いつも一緒に帰ってない？」<br>　――「付き合ってんの？」</p>



<p>（……なんで、そんなこと言われただけで、意識しちまうんだよ）</p>



<p>　別に、菜月とは昔からの付き合いだし、ただの友達だろ。<br>　それなのに、なんか変な感じがする。</p>



<p>「悠斗、さっきから黙ってない？」</p>



<p>　突然、菜月が俺をじっと見上げてきた。</p>



<p>「え？ いや、そんなことないけど」</p>



<p>「そう？」</p>



<p>　菜月は特に気にする様子もなく、「ならいいけど」と軽く流した。<br>　でも、その横顔を見て、また少しだけ落ち着かなくなる。</p>



<p>（……なんか、意識しちまってる？ 俺）</p>



<p>　こんなこと、今までなかったのに。</p>



<p>　一方で、菜月は陽菜の様子をちらりと見ていた。<br>　<br>　いつも通り、圭吾にツッコんでいるけれど、なんとなく柔らかい雰囲気がある気がする。<br>　以前よりも、なんというか――自然に笑っているような。<br>　<br>（……まぁ、気のせいかな）</p>



<p>　深く考えようとしたけれど、圭吾が突然、陽菜の持っている荷物をひょいっと奪った。</p>



<p>「ちょっ！ 圭吾！？」</p>



<p>「はいはい、お前はもうちょっと楽しろっての」</p>



<p>「いや、別に重くないし……」</p>



<p>「でも、俺が持ちたいの。ほら、ありがたく思え？」</p>



<p>「はぁ！？ 何その理論！」</p>



<p>　いつものようなやり取り。</p>



<p>　菜月はなんとなく笑っていたけれど、悠斗の視線が少しだけ気になった。</p>



<p>（……悠斗、なんでそんな微妙な顔してるの？）</p>



<p>　一方で、悠斗は未だに自分の気持ちに整理がつかないままだった。<br>　<br>　なんでこんなに菜月のことを気にしてるのか、自分でもわからない。<br>　別にいつも通りなのに。<br>　<br>「悠斗？」</p>



<p>　菜月の声がして、またハッとする。</p>



<p>「え、ああ、なんだ？」</p>



<p>「さっきから、ぼーっとしてる」</p>



<p>「いや、そんなことないって」</p>



<p>「ほんと？」</p>



<p>　菜月は少しだけ首を傾げて、俺の顔をじっと見た。<br>　<br>　その仕草に、また心臓が妙に跳ねる。</p>



<p>（……俺、菜月のこと、意識しちまってる？）</p>



<p>　そんな考えが浮かんで、ますます訳がわからなくなった。</p>



<p>　やがて、駅に到着する。</p>



<p>「じゃ、ここで解散か」</p>



<p>　圭吾が言うと、陽菜が小さく頷いた。</p>



<p>「うん、みんなありがとね」</p>



<p>「おう、俺がいなきゃダメだろ？」</p>



<p>「はいはい、そうだね」</p>



<p>　陽菜のその返しに、圭吾は少しだけ笑った。</p>



<p>　その笑顔を見たとき、菜月はふと感じた。<br>　<br>（あれ、陽菜って……前より楽しそう？）</p>



<p>　でも、それ以上深く考えず、「じゃあね！」と軽く手を振った。</p>



<p>　駅で解散した後も、悠斗の頭の中はずっとモヤモヤしていた。</p>



<p>（……なんか変だ）</p>



<p>　菜月とはずっと一緒に帰ってたし、別に今まで意識したことなんてなかったのに。<br>　なのに、部活の連中の何気ない言葉が引っかかって、今日一日ずっと変な感じだった。</p>



<p>　気づけば、スマホを開いて無意味にスクロールしている。<br>　こんなときは、誰かと話して気を紛らわせたい――。</p>



<p>　そう思い、軽くメッセージを送ろうとしたそのときだった。</p>



<p>「悠斗？」</p>



<p>　不意に声をかけられて、顔を上げると、そこには菜月が立っていた。</p>



<p>「え、お前まだ帰ってなかったの？」</p>



<p>「いや、ちょっと買い物してたんだけど……悠斗こそ、なにしてんの？」</p>



<p>「別に、なんでもねぇよ」</p>



<p>「ふーん？」</p>



<p>　菜月は少しだけ笑って、悠斗の隣に腰掛ける。<br>　<br>「今日、なんか変だったよね」</p>



<p>「え？」</p>



<p>「悠斗、さっきからずっとぼーっとしてるし。ていうか、部活帰りに一緒に帰るのを避けたの、初めてじゃない？」</p>



<p>「……いや、そんなことないけど」</p>



<p>「ほんと？」</p>



<p>　菜月はじっと悠斗を見つめる。</p>



<p>　それがなんとなく落ち着かなくて、悠斗はわざとそっぽを向いた。</p>



<p>「……お前だって、気にしてたんじゃねーの？」</p>



<p>「え？」</p>



<p>「部活の連中が、俺たちのこと付き合ってるみたいに言ってただろ」</p>



<p>「あぁ……あれね」</p>



<p>　菜月はふっと小さく笑う。</p>



<p>「別に、気にしてないよ？」</p>



<p>「マジで？」</p>



<p>「うん。だって、付き合ってるわけじゃないし」</p>



<p>「……まぁ、それは、そうだけどさ」</p>



<p>　悠斗はなんとなく返事に詰まる。</p>



<p>（菜月は、気にしてないのか）</p>



<p>　なら、俺が変に意識する必要なんてない。<br>　そう思うのに――なんで、こんなに胸がざわつくんだろう。</p>



<p>　一方で、菜月も自分の気持ちを整理できずにいた。</p>



<p>　確かに、悠斗とはずっと友達だった。<br>　それが変わるなんて、考えたこともなかった。</p>



<p>　でも、今日の悠斗は明らかにいつもと違っていた。</p>



<p>（……なんで、避けたの？）</p>



<p>　それが、ずっと引っかかっていた。</p>



<p>「……悠斗」</p>



<p>「ん？」</p>



<p>「もし……もしだよ？」</p>



<p>　菜月は少し言葉を選ぶようにして、続ける。</p>



<p>「もしさ……例えば、私が悠斗のこと、ちょっと意識してるとしたら？」</p>



<p>「……え？」</p>



<p>　一瞬、時が止まったような気がした。</p>



<p>「ううん、そんなに深い意味はないんだけどね？」</p>



<p>　そう言いながら、菜月はふっと笑う。<br>　でも、その表情には、ほんの少しの恥じらいがにじんでいた。<br>　無理に軽く言おうとしているのが分かる。</p>



<p>（……なんだよ、それ）</p>



<p>　悠斗はドキッとした。</p>



<p>　冗談のように言いながらも、菜月の指先が制服の裾をぎゅっと握っている。<br>　まるで、自分の言葉を誤魔化すみたいに。</p>



<p>「えっ、それ……どういう意味？」</p>



<p>「さあ？ どういう意味だろうね？」</p>



<p>　菜月は、少しだけ顔を伏せる。</p>



<p>　けれど、耳までほんのり赤くなっているのを、悠斗は見逃さなかった。</p>



<p>「じゃ、また明日ね！」</p>



<p>　菜月はそれ以上何も言わず、軽く手を振って歩き出す。</p>



<p>　悠斗は、しばらくその後ろ姿を見つめていた。</p>



<p>（……やべぇ、ほんとにわかんねぇ）</p>



<p>　でも、一つだけ確かなのは――</p>



<p>　――菜月の言葉が、頭から離れない。</p>



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		<title>『二日遅れのバレンタイン』</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 02 Mar 2025 02:41:12 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[オーバーステップ！]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[ハンドボール]]></category>
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					<description><![CDATA[　2月14日。 　いつもと同じはずの学校が、どこか浮ついた空気をまとっている。　朝から廊下を歩けば、「○○先輩に渡すんだ！」「手作りってすごいね！」なんて声が飛び交い、昼休みになれば「チョコ、もらった？」「○個ゲット！」 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="720" height="360" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/cf17aead804862016ca5c6a581b38218.jpeg" alt="" class="wp-image-2116" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/cf17aead804862016ca5c6a581b38218.jpeg 720w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/03/cf17aead804862016ca5c6a581b38218-300x150.jpeg 300w" sizes="(max-width: 720px) 100vw, 720px" /></figure>



<p>　2月14日。</p>



<p>　いつもと同じはずの学校が、どこか浮ついた空気をまとっている。<br>　朝から廊下を歩けば、「○○先輩に渡すんだ！」「手作りってすごいね！」なんて声が飛び交い、昼休みになれば「チョコ、もらった？」「○個ゲット！」といった会話が聞こえてくる。</p>



<p>　そんな賑やかな空気の中で、橘陽菜はずっとタイミングを探していた。</p>



<p>　手提げの中に、小さな包み。<br>　悠斗に渡すはずだった。</p>



<p>（……でも、渡せるかな）</p>



<p>　陽菜は人目を忍ぶようにして、悠斗の姿を探した。</p>



<p>　そして、見つけてしまった。</p>



<p>「悠斗、今日は帰る？」<br>「んー、どうしようかな」</p>



<p>　菜月と悠斗が二人で話している。</p>



<p>（……あ）</p>



<p>　陽菜は、心臓がぎゅっと縮こまるような感覚を覚えた。</p>



<p>　そんなの、見慣れた光景のはずなのに。<br>　悠斗と菜月が一緒にいるのは、今に始まったことじゃない。<br>　それでも、こういう日だからこそ、胸の奥に何かが引っかかる。</p>



<p>　――渡せない。</p>



<p>　渡したところで、悠斗は受け取ってくれるかもしれない。<br>　でも、きっと彼の隣にいるのは、自分じゃない。</p>



<p>　それを思い知らされるのが、怖かった。</p>



<p>　陽菜はそっと足を引いた。<br>　そもそも、これは渡すべきじゃなかったのかもしれない。<br>　最初から、悠斗に気持ちを伝えるつもりなんてなかったんだから。</p>



<p>　――そうだよ、今年も。<br>　私は、この気持ちをなかったことにするんだ。</p>



<p>　そう決めて、背を向けたときだった。</p>



<p>「助けてくれー！」</p>



<p>　聞き慣れた声に、足が止まる。</p>



<p>「ん？」</p>



<p>　振り返ると、そこには圭吾が床にはいつくばっていた。</p>



<p>「糖分が切れて動けない……誰か、この中にチョコを持ってる方はいませんか！」</p>



<p>　そう言いながら、パタリと倒れてみせる。</p>



<p>「なにそれ」</p>



<p>　陽菜が呆れながらも笑うと、圭吾はニッと笑ってみせた。</p>



<p>「いや、マジでやばいんだって。俺、今日チョコ一個ももらえてないんだけど？」</p>



<p>「え、本当に？」</p>



<p>「なんでそんな驚くんだよ！」</p>



<p>　ふざけたやりとりをしながらも、陽菜の手は無意識にカバンへと伸びていた。</p>



<p>（……どうせ、渡せないし）</p>



<p>　そう思いながら、陽菜は圭吾に向かって小さな包みを差し出した。</p>



<p>「ほら、これあげるから起きて」</p>



<p>「……え？」</p>



<p>　圭吾の顔が、少しだけ驚いたように固まる。</p>



<p>「まじで？」</p>



<p>「うん！」</p>



<p>　圭吾は、一瞬何かを考えるように陽菜を見つめたあと、いつもの軽い調子で言った。</p>



<p>「やったー！ 陽菜、ありがとうな！」</p>



<p>　ぱっと明るい笑顔を向けられると、陽菜もつられるように微笑んだ。</p>



<p>　――これでいい。</p>



<p>　自分の気持ちなんて、どうせ叶わないんだから。</p>



<p>　そうして、圭吾が包みを開けたそのとき。</p>



<p>「お、もうこんな時間か。じゃあ俺、帰るわ！」</p>



<p>　陽菜の返事を待たずに、圭吾は軽い足取りで昇降口を抜けていった。</p>



<p>　まるで、何事もなかったかのように。</p>



<p>　圭吾の後ろ姿を見送りながら、陽菜はふっと息をついた。<br>　軽い冗談みたいな流れだったけど、それでいい。<br>　少なくとも、余計なことを考えなくて済んだ。</p>



<p>（これで、終わり）</p>



<p>　そう思いながらも、心の奥でほんの少しだけ引っかかるものがあった。</p>



<p>　夕方。</p>



<p>　悠斗と菜月が並んで昇降口を出た、その瞬間。</p>



<p>「おーい、悠斗！」</p>



<p>　駆け寄ってきたのは、さっき帰ったはずの圭吾だった。</p>



<p>「なんだよ、まだいたのか」</p>



<p>「いやいや、それよりさ、これ食ってみ！」</p>



<p>　そう言いながら、圭吾は手に持っていたチョコの包みをひとつ差し出した。</p>



<p>「……は？」</p>



<p>「これ、めちゃくちゃうまいから！」</p>



<p>「いや、なんでお前が俺に渡すんだよ」</p>



<p>「いいから、騙されたと思って食えって！」</p>



<p>　悠斗は仕方なさそうに包みを開け、チョコをひとつ口に入れた。</p>



<p>「……うまっ！」</p>



<p>「だろ？」</p>



<p>　得意げに胸を張る圭吾に、菜月が目を瞬かせる。</p>



<p>「圭吾、チョコもらえたの！？」</p>



<p>「まぁな！」</p>



<p>「すごいじゃん、よかったね！」</p>



<p>「だろ？」</p>



<p>　圭吾は笑顔で答えながら、ふっと軽く手を振った。</p>



<p>「じゃあ、俺は先に行くわ。まだ俺に渡したい人がいるかもしれないしな！」</p>



<p>　そう言い残して、圭吾はすぐに去っていく。</p>



<p>　悠斗と菜月は顔を見合わせながら、圭吾の後ろ姿を見送った。</p>



<p>「なんか、今日の圭吾、変じゃない？」</p>



<p>「んー？ まぁ、いつものことだろ」</p>



<p>　悠斗は気にすることもなく、再び歩き出した。</p>



<p>　翌朝の教室。</p>



<p>　陽菜はいつも通りに席についた。<br>　何事もなかったように、机にノートを広げ、ぼんやりとページをめくる。</p>



<p>　――すると、廊下の向こうから聞こえてくる声があった。</p>



<p>「圭吾、昨日チョコもらってたんだよ！」</p>



<p>　その言葉に、陽菜の指がピクリと止まる。</p>



<p>　悠斗と大和が、教室の入り口で話している。<br>　何気ない雑談のように聞こえたけど、陽菜にとっては耳が離せない内容だった。</p>



<p>「え、マジか？」</p>



<p>　大和の驚いた声。</p>



<p>「うん、俺もびっくりしたけどな。しかも手作りでさ、一個もらったんだけど、美味しかった」</p>



<p>（……！）</p>



<p>　陽菜の胸が、一気に跳ねる。</p>



<p>（悠斗が……なんで？）</p>



<p>　昨日のチョコを食べたのは、圭吾だけじゃなかった。</p>



<p>（……私のチョコ）</p>



<p>　悠斗が食べた。<br>　美味しいって言ってくれた。</p>



<p>　嬉しいはずなのに、心が全然浮き立たない。</p>



<p>　むしろ、ぎゅっと胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。</p>



<p>　陽菜はそっと自分の手を握る。</p>



<p>　本当に、悠斗に渡したかったはずなのに。<br>　彼が食べてくれたなら、それでよかったはずなのに――</p>



<p>（なんで、こんな気持ちになるの？）</p>



<p>　そのとき、大和がぽつりと呟いた。</p>



<p>「でもさ、圭吾、自分で買ったんじゃなくて？」</p>



<p>「いや、それがちゃんと手作りでさ」</p>



<p>「誰から？」</p>



<p>「それは秘密って言ってた」</p>



<p>　陽菜の呼吸が、一瞬止まった。</p>



<p>（……圭吾）</p>



<p>　圭吾は、チョコをもらったことを隠している？<br>　あんなに軽いノリで受け取って、いつもならすぐに自慢しそうなのに？</p>



<p>「つーか、悠斗、お前が食べたんなら分かるだろ？ 圭吾のチョコ、誰のだったか」</p>



<p>「いや、俺も知らないし。でも、マジで美味かったぞ」</p>



<p>（……）</p>



<p>　悠斗の声が響く。</p>



<p>（美味しいって、言ってくれたのに）</p>



<p>　それよりも、圭吾が誰にも言わず、黙っていることのほうが気になった。</p>



<p>　昼休み。</p>



<p>　気づけば、無意識のうちに、圭吾のいる方へと目を向けていた。</p>



<p>　彼は、いつものように明るく笑いながら、悠斗や大和と話している。</p>



<p>（本当に、いつもと同じ）</p>



<p>　だけど、昨日のあのとき、<br>　渡した瞬間、彼はほんの一瞬、驚いた顔をした。</p>



<p>　それが、ずっと頭にこびりついている。</p>



<p>（なんで、圭吾は言わないの？）</p>



<p>　自慢げに言いふらすタイプなのに。<br>　誰からもらったのか、興味津々で聞かれるのが分かっているのに。</p>



<p>（……なんで？）</p>



<p>　胸の奥に、妙なざわめきが広がる。</p>



<p>「陽菜？」</p>



<p>「……！」</p>



<p>　声をかけられて、はっと顔を上げる。</p>



<p>「……な、なに？」</p>



<p>　目の前にいたのは圭吾だった。</p>



<p>「どうした？」</p>



<p>「……別に」</p>



<p>　陽菜は、とっさに視線を逸らした。</p>



<p>　でも、圭吾はそれ以上は何も聞かず、「そうか」とだけ言って笑った。</p>



<p>（なんで、そんな普通でいられるの）</p>



<p>　何もなかったみたいに。<br>　昨日のことなんて、何もなかったみたいに。</p>



<p>（……どうして？）</p>



<p>　陽菜は、ぎゅっと手を握りしめる。</p>



<p>（でも、私もずっと誤魔化してたんだから）</p>



<p>　気づかないふりをしてたんだから。</p>



<p>　圭吾の優しさに、ずっと。</p>



<p>　放課後。</p>



<p>　陽菜は、まだ帰る気になれずにいた。</p>



<p>　廊下を歩きながら、圭吾の背中を探す。<br>　なんでこんなことをしているのか、自分でも分からない。</p>



<p>（……聞きたい）</p>



<p>　何を？</p>



<p>（圭吾は、なんで昨日のことを誰にも言わなかったんだろう）</p>



<p>　それを知ったところで、何が変わるわけでもない。<br>　だけど、気になって仕方がない。</p>



<p>　すると、ちょうど視界の先に圭吾の姿が見えた。</p>



<p>　悠斗と軽く話したあと、圭吾はひとりで昇降口へ向かっていく。</p>



<p>　陽菜は、迷う間もなく、駆け足でその後を追った。</p>



<p>「圭吾！」</p>



<p>　昇降口の前で、思わず名前を呼んだ。</p>



<p>「おっ、陽菜」</p>



<p>　振り返った圭吾は、特に驚くでもなく、いつもの軽い笑顔を向けてくる。</p>



<p>「どうした？」</p>



<p>「……ちょっと、話があって」</p>



<p>「おぉ、俺に？ なんだなんだ、ついに告白か？」</p>



<p>「はぁ！？ ち、違うし！」</p>



<p>　反射的に否定したけれど、思わず心臓が跳ねた。<br>　冗談だって分かってるのに。</p>



<p>（……私、何考えてるの？）</p>



<p>　気持ちを落ち着かせるように深呼吸して、もう一度圭吾を見上げた。</p>



<p>「……昨日のことなんだけど」</p>



<p>　その言葉に、圭吾がふっと表情を緩める。</p>



<p>「ん？ なんかあったっけ？」</p>



<p>「……」</p>



<p>　なんでもないことみたいに、そう言う。</p>



<p>（ほんと、こういうとこ……）</p>



<p>「圭吾さ、昨日チョコもらったこと、誰にも言ってないよね？」</p>



<p>　真正面から聞くと、圭吾は少しだけ目を瞬かせた。</p>



<p>「……なんで？」</p>



<p>「それは……」</p>



<p>　自分でも分からない。</p>



<p>　ただ、気になって仕方がなかっただけ。</p>



<p>　そう言おうとしたけれど、圭吾は笑って、いつもの調子で続けた。</p>



<p>「別に、言う必要ないかなって思っただけ」</p>



<p>「……どうして？」</p>



<p>「ほら、俺ってモテるキャラじゃん？ もらったチョコの数とか、適当なこと言っといたほうが、なんかカッコつくだろ？」</p>



<p>「……」</p>



<p>（嘘だ）</p>



<p>　分かる。</p>



<p>　だって、昨日の圭吾は、ほんの少しだけ――いや、確かに驚いていた。</p>



<p>　あの一瞬の間。</p>



<p>（本当は、知ってたんでしょ？）</p>



<p>　本当は悠斗に渡したかったこと。</p>



<p>　だから、圭吾はあえて、冗談みたいに受け取って、悠斗に渡してくれた。</p>



<p>　そうやって、全部、私の気持ちを隠してくれた。</p>



<p>　でも――</p>



<p>「……もしかして」</p>



<p>「ん？」</p>



<p>「圭吾ってさ、ずっとこういうことしてきた？」</p>



<p>「こういうこと？」</p>



<p>「……私が、気持ちを消そうとするたびに」</p>



<p>　圭吾の目が、わずかに揺れる。</p>



<p>　それを見て、陽菜は確信した。</p>



<p>（やっぱり、そうなんだ）</p>



<p>　過去の記憶が、蘇る。</p>



<p>　悠斗と菜月が仲良くしているのを見たとき。<br>　自分の気持ちを、なかったことにしようとしたとき。</p>



<p>　――そのたびに、圭吾は。</p>



<p>　何気ない冗談みたいに、私を引き戻してくれた。</p>



<p>「……なんで？」</p>



<p>　小さな声で問いかける。</p>



<p>「なんで、そんなことしてくれるの？」</p>



<p>　圭吾は、しばらく黙っていた。</p>



<p>　その沈黙が、陽菜の胸を締め付ける。</p>



<p>　――本当は、知りたくなかったのかもしれない。</p>



<p>　でも、もう、気づいてしまった。</p>



<p>　圭吾が、ずっと自分を見てくれていたこと。<br>　ずっと、気にかけてくれていたこと。</p>



<p>　それなのに、私は――</p>



<p>「……」</p>



<p>　言葉が出てこない。</p>



<p>「お前さ、ほんと鈍いよな」</p>



<p>　圭吾が、ふっと笑う。</p>



<p>「……なにそれ」</p>



<p>「いや、なんでもない」</p>



<p>（……）</p>



<p>　ずっと近くにいたのに。<br>　いつもふざけてて、適当で、誰にでも優しくて。</p>



<p>　でも、本当は――</p>



<p>（……気づいてなかったの、私だけだったんだ）</p>



<p>　陽菜は、ぎゅっと拳を握る。</p>



<p>「……圭吾、ありがとね」</p>



<p>「ん？」</p>



<p>「今までずっと、気にしてくれてたんでしょ？」</p>



<p>「……さぁ、どうだろ」</p>



<p>　圭吾はいつもの調子で、肩をすくめる。</p>



<p>　でも、陽菜には分かる。</p>



<p>　本当は、誤魔化してるだけだって。</p>



<p>（……私、どうしたらいいのかな）</p>



<p>　悠斗が好きだった。<br>　ずっと、好きだった。</p>



<p>　でも、今――</p>



<p>（一番心に浮かぶのは、ずっとそばにいてくれた、あの笑顔だった）</p>



<p>「……じゃあ、また明日な」</p>



<p>　圭吾が、軽く手を振って歩き出す。</p>



<p>　その後ろ姿を見ながら、陽菜はふっと息をついた。</p>



<p>（私、どうしたらいいんだろう）</p>



<p>　<br>　次の日の昼休み。</p>



<p>　陽菜は、いつものように菜月と一緒に教室で昼食をとっていた。<br>　昨日のことを考えると、どこかそわそわしてしまう自分がいる。</p>



<p>「そういえばさ、陽菜ってチョコ、誰かに渡したの？」</p>



<p>　菜月が何気なく尋ねた。<br>　口元におにぎりを運びながら、さらっとした言い方だったけれど、陽菜は思わずドキッとしてしまう。</p>



<p>「えっ？ うーん……まぁ、一応……」</p>



<p>「おぉ、そうなんだ！」</p>



<p>　菜月が少し驚いたように目を丸くする。</p>



<p>「陽菜のことだから、クラスの女子たちと交換して終わりかと思ってた」</p>



<p>「いやいや、さすがにそれだけじゃないよー？」</p>



<p>　笑いながらそう返したものの、陽菜は心の中で少し迷った。</p>



<p>（……言うべき？）</p>



<p>　でも、なんとなく言葉にするのが照れくさい。</p>



<p>「じゃあ、誰に渡したの？」</p>



<p>「うーん……」</p>



<p>　少し考えて、ふっと笑う。</p>



<p>「……大事な人、かな？」</p>



<p>　言った瞬間、自分の頬がじんわりと熱くなるのがわかった。</p>



<p>「えー、なにそれ！」</p>



<p>　菜月が茶化すように笑う。</p>



<p>「なんか、すごい意味深なんだけど」</p>



<p>「そ、そんなことないよ！」</p>



<p>　慌てて誤魔化すけれど、菜月は「ふーん？」と怪しげに微笑む。</p>



<p>「ま、陽菜がそう言うなら、深くは聞かないけど」</p>



<p>「えっ、菜月は？ ちゃんと渡した？」</p>



<p>　陽菜が話題を変えるように聞くと、菜月は少しだけ視線をそらした。</p>



<p>「……まぁ、一応」</p>



<p>「そっちも意味深なんですけど！」</p>



<p>　お互いの曖昧な言葉に、なんとなく笑い合う。</p>



<p>　そのやり取りの中で、陽菜は改めて実感した。</p>



<p>（……うん、やっぱり、これでよかったんだ）</p>



<p>　昨日の夜、何度も考えた。<br>　悠斗のこと、圭吾のこと、そして自分の気持ち。</p>



<p>　答えはまだはっきりしないけれど、一つだけ分かったことがある。</p>



<p>（私はもう、過去の気持ちには戻らない）</p>



<p>　悠斗を好きだった気持ちは嘘じゃない。<br>　でも、もうそれだけじゃない。</p>



<p>　今は――</p>



<p>　陽菜は深く息を吸い、そっと机の中に小さな包みを滑り込ませた。<br>　昨日とは違う、今の気持ちを込めたチョコレートを。</p>



<p>　昼休み。</p>



<p>　教室に戻った圭吾が、机の中の小さな包みを見つけたのはそのときだった。</p>



<p>「ん？」</p>



<p>　誰かのいたずらかと思いながらも、中身を確認する。</p>



<p>　そこには、小さな手書きのメッセージが添えられていた。</p>



<p>『遅くなったけど、これ受け取ってね。――陽菜』</p>



<p>　メッセージカードを指でなぞりながら、圭吾は小さく笑った。</p>



<p> そして、一粒を口に運んだ。</p>



<p>　昨日と同じチョコのはずなのに、なぜか違う味がする。<br>　甘さが静かに広がり、心の奥にじんわりと染みていく。</p>



<p>（……やっぱ、うまいな）</p>



<p>　窓の外をぼんやりと眺めながら、ふっと息を吐く。</p>



<p>　もう一度、包みをそっと指でなぞる。</p>



<p>　昨日と同じはずのチョコレートは、なぜか今日のほうが、ずっと甘かった。</p>



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			</item>
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		<title>『交差する思い』</title>
		<link>https://novel-room.online/intersecting-thoughts/</link>
					<comments>https://novel-room.online/intersecting-thoughts/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[kei]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 11 Feb 2025 07:46:36 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[オーバーステップ！]]></category>
		<category><![CDATA[青春]]></category>
		<category><![CDATA[恋愛]]></category>
		<category><![CDATA[ハンドボール]]></category>
		<category><![CDATA[片想い]]></category>
		<category><![CDATA[すれ違い]]></category>
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					<description><![CDATA[始まりは、何気ない朝、春の光が差し込む教室。 　朝のHR（ホームルーム）が始まるまでの時間、まだ少し眠たげなクラスメイトたちの声が飛び交っていた。 　悠斗は自分の席に座り、なんとなく窓の外を眺める。　体育館の方角――つい [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="800" height="400" src="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/02/a0d07e45fd0c901e83825f5127791423.jpg" alt="" class="wp-image-2063" srcset="https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/02/a0d07e45fd0c901e83825f5127791423.jpg 800w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/02/a0d07e45fd0c901e83825f5127791423-300x150.jpg 300w, https://novel-room.online/wp-content/uploads/2025/02/a0d07e45fd0c901e83825f5127791423-768x384.jpg 768w" sizes="(max-width: 800px) 100vw, 800px" /></figure>



<p>始まりは、何気ない朝、春の光が差し込む教室。</p>



<p>　朝のHR（ホームルーム）が始まるまでの時間、まだ少し眠たげなクラスメイトたちの声が飛び交っていた。</p>



<p>　悠斗は自分の席に座り、なんとなく窓の外を眺める。<br>　体育館の方角――ついさっきまで、朝練をしていた場所だ。</p>



<p>　（今日は調子よかったな）</p>



<p>　ハンドボール部のエースとして、日々の練習は欠かせない。<br>　けれど、試合に向けての調整を終えても、なんとなく気持ちが落ち着かなかった。</p>



<p>　それは――。</p>



<p>「おはよ、眠そうだね」</p>



<p>　不意にかけられた声に、悠斗は顔を上げた。<br>　そこには、クラスメイトであり、女子ハンドボール部のエースでもある菜月が立っていた。</p>



<p>「ん……ああ、おはよう」<br>「朝練してたでしょ？ いつもより疲れてる顔してる」<br>「そっちこそ、昨日遅くまで練習してただろ」</p>



<p>　菜月はくすっと笑いながら、悠斗の隣の席に座る。<br>　二人の席は窓側の並びで、普段から何かと話す機会が多かった。</p>



<p>　「ねぇ、今日の数学、小テストあるの知ってる？」</p>



<p>　「……マジ？」</p>



<p>　悠斗は軽く頭を抱えた。</p>



<p>「うわー、やばい……ぜんぜん分からねぇ」</p>



<p>　昼休み、悠斗は数学のプリントを前にため息をついていた。<br>　小テストの時間はもうすぐだ。</p>



<p>　菜月は向かいの席からプリントを覗き込み、呆れたように笑った。</p>



<p>「え、ちょっと待って、これ解けてないの？」<br>「……バカにすんなよ」<br>「バカにしてるよ。ていうか、真面目にやってないでしょ？」</p>



<p>　悠斗は「ぐっ」と言葉に詰まる。<br>　確かに、数学はあまり得意じゃない。</p>



<p>「しょうがないなあ……」</p>



<p>　菜月は自分のノートを開き、さらさらと問題を解いて見せる。<br>　「ここ、こうやって整理すると解きやすいよ」と、手元を指で示しながら説明する。</p>



<p>　（……近い）</p>



<p>　悠斗は、ほんの数センチの距離に気づき、思わず視線を外した。</p>



<p>　菜月はそんな悠斗の動揺に気づかず、「ほら、こうすれば簡単でしょ？」と微笑む。</p>



<p>　（なんでこいつ、こんなに自然に距離詰めてくるんだ……）</p>



<p>　何も意識していない風の菜月と、なぜか意識してしまう自分。<br>　そのギャップに、悠斗は少しだけ苦しくなった。</p>



<p>　放課後、悠斗は一人で数学のノートを開いていた。<br>　さっき菜月に教えてもらったことを、もう一度復習してみる。</p>



<p>　だが――。</p>



<p>「……ダメだ、集中できねぇ」</p>



<p>　なぜか、さっきの菜月の顔ばかり浮かんでくる。<br>　笑いながら「簡単でしょ？」と言った声。<br>　ほんの少しだけ、自分の手元に触れた指先の感触。</p>



<p>　悠斗は軽く頭を振った。</p>



<p>　（何考えてんだよ……ただの友達だろ）</p>



<p>　そう、友達。<br>　クラスメイトで、ハンドボール部の仲間で――それ以上でも、それ以下でもない。</p>



<p>　そう思うのに。</p>



<p>　「……帰らないの？」</p>



<p>　ふいに聞こえた声に、悠斗は驚いて顔を上げた。<br>　そこには、菜月が立っていた。</p>



<p>「え？」<br>「なんか考え込んでたから。帰るの忘れてるのかと思って」<br>「……いや、ちょっと復習してただけ」</p>



<p>　菜月は「そっか」と微笑んだ。</p>



<p>　「じゃあ、また明日ね」</p>



<p>　そう言って教室を出ていく菜月の背中を見送りながら、悠斗はぼんやりと思った。</p>



<p>　（また、明日――）</p>



<p>　たったそれだけの言葉なのに、胸が少しだけ締めつけられるのは、どうしてだろう。</p>



<p>　翌日の昼休み、悠斗はいつものように昼飯を食べながら、クラスメイトたちの何気ない会話を聞いていた。<br>　ハンドボールの試合の話、次のテストの話、週末の予定――どれも適当に聞き流していたが、ある話題が耳に引っかかった。</p>



<p>「なあ、相原ってさ、誰か好きなやついるのかな？」</p>



<p>「え、菜月？ どうだろ……でもさ、この前、誰かに手作りのクッキー渡してたらしいぜ」</p>



<p>「え、それ本命？」</p>



<p>「さあ？ でも、あんなの渡されたら意識するだろ」</p>



<p>　何気ない会話。<br>　けれど、その言葉が胸に突き刺さる感覚がした。</p>



<p>（……菜月が、誰かに？）</p>



<p>　悠斗は気にしないふりをした。<br>　ただの噂話。<br>　しかも、菜月が誰を好きだろうと、自分には関係ない――はずだった。</p>



<p>　それなのに、どうしてこんなに心がざわつくんだろう。</p>



<p>　放課後、悠斗はいつものように教室に残っていた。<br>　数学のノートを開いているが、内容は全く頭に入ってこない。</p>



<p>　そのとき、目の前の席に菜月が座った。</p>



<p>「今日も勉強？ 偉いね」</p>



<p>「……まぁな」</p>



<p>　普段なら、自然に話せるのに。<br>　今日は、どこかぎこちなくなってしまう。</p>



<p>　（聞くべきじゃない。こんなの、ただの噂話なんだから）</p>



<p>　でも。</p>



<p>　知りたい。</p>



<p>「なあ、お前……誰かにクッキー渡したのか？」</p>



<p>　気づけば、言葉が口をついていた。<br>　菜月は少し驚いたように目を瞬かせ、それから微笑んだ。</p>



<p>「ああ、それ？ ただのお礼だよ」</p>



<p>「お礼？」</p>



<p>「うん。前に、筆箱落としたときに拾ってくれた人がいてね。そのお礼に、ちょっとだけ作って渡したの」</p>



<p>　それだけ。<br>　なのに、悠斗の胸に広がっていたざわつきは、ゆっくりと消えていく。</p>



<p>「……なんだ、それだけかよ」</p>



<p>「え、なに？ まさか、私が誰かに本命のクッキー渡したって思った？」</p>



<p>　菜月はくすっと笑いながら、悠斗の肩を軽く小突く。</p>



<p>「いや、別に」</p>



<p>「ふーん？」</p>



<p>　からかうような瞳。<br>　悠斗はそれ以上、何も言えなかった。</p>



<p>　それからしばらく、悠斗は自分が菜月を意識しすぎていることに気づき始めた。</p>



<p>　いつも通り、隣の席で話しているのに。<br>　昼休みにノートを見せてもらっているのに。<br>　放課後、何気なく一緒に帰ることがあっても。</p>



<p>　（俺、なんでこんなに気にしてるんだ？）</p>



<p>　菜月は、特別なことをしているつもりはないのかもしれない。<br>　けれど、悠斗にとっては、その何気ない言葉や仕草が、心を揺さぶる要因になっていた。</p>



<p>　（……ダメだ、こんなの）</p>



<p>　悠斗は無理やり、そんな感情を押し込める。<br>　これはただの「クラスメイト」としての関係だ。</p>



<p>　それ以上を望んではいけない。</p>



<p>　ある日、部活が休みだった日のこと。<br>　悠斗は雨が降る中、教室で一人で勉強していた。</p>



<p>　他のクラスメイトはすでに帰っていて、教室には誰もいない――はずだった。</p>



<p>「……あれ、まだいたんだ？」</p>



<p>　ふと、声がする。<br>　振り向くと、菜月が教室の入り口に立っていた。</p>



<p>「お前こそ、帰らないのか？」</p>



<p>「うん、傘持ってなくて。止むの待ってた」</p>



<p>　悠斗は窓の外を見る。<br>　強く降っていた雨は、少し小降りになってきていた。</p>



<p>「……送ってやろうか？」</p>



<p>　思わず、そう口にしていた。</p>



<p>　菜月は少し驚いたように目を丸くし、それからふわりと笑った。</p>



<p>「うん、じゃあお願いしようかな」</p>



<p>　二人で一本の傘。<br>　いつも通りの距離なはずなのに、雨音が静かだからか、いつもよりも近く感じる。</p>



<p>「……」</p>



<p>　悠斗は、言葉を探すように口を開きかけた。<br>　でも、何を言えばいいのか分からない。</p>



<p>　そんな沈黙の中、菜月がぽつりと呟いた。</p>



<p>「ねえ、高槻くんはさ……好きな人、いるの？」</p>



<p>　悠斗は思わず、傘を持つ手を強く握る。</p>



<p>「……急にどうした？」</p>



<p>「なんとなく」</p>



<p>　なんとなく、の意味が分からなかった。</p>



<p>「……いないよ」</p>



<p>　悠斗は、嘘をついた。</p>



<p>　隣で菜月が、ほんの少しだけ寂しそうに微笑んだのを、悠斗は見逃さなかった。</p>



<p>　次の日も、その次の日も、悠斗は何も言えなかった。<br>　菜月との距離は変わらない。<br>　それなのに、何かが少しずつ、すれ違っていくような気がした。</p>



<p>　「好きな人いるの？」の問い。<br>　あのとき、もし本当のことを言っていたら――何かが変わっていたのだろうか。</p>



<p>　答えを出せないまま、時間だけが過ぎていく。</p>



<p>　「おはよう」</p>



<p>　次の日も、菜月は笑って教室に入ってきた。<br>　いつも通りの朝。<br>　いつも通りの会話。</p>



<p>　でも――。</p>



<p>（この気持ちは、どうしたらいいんだろう）</p>



<p>　悠斗はただ、菜月の笑顔を見つめることしかできなかった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p></p>
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